top of page

エピソード1『世界樹 -妖精さんを仲間にするには?-』

プロローグ1

 

 

 

 

 

「憧れ」という道しるべは 誰にも壊すことは出来ない。

メラゾーマにだって魔王にだって

わたしの脳裏の立札を壊すことはできない。

 

…しかしこっちはうらがわ。かいてあるもじがよめない!

そう。時間が経ちすぎてしまうと、立札は朽ち果て表も裏もわからなくなり、文字は色褪せ、何て書いてあったか読めなくなってしまうもの。

 

 

 

 

 

プロローグ2

 

 

 

 

 

大神官ハーゴンがロトの子孫たちに討ち倒されてから、500年余りが経過していた。

(自著『転生したらローレシアのメイドさんだった件』参照のこと)

 

今、ななたちの世界はおおむね平和である。少なくとも魔物なるものの襲撃を受けて命を失う話は耳にしない。

あの日、大神官ハーゴンが討ち倒されても、それで世界が平和になったわけではなかった。統率者を失ってもなお各地で魔物たちはうごめき続けたが、どうも妙な言い伝えが各地に残っている。

「陽気な吟遊詩人がこの町に来てから、魔物の姿を見なくなった」と。

しかし、彼の名前を誰も知らない。町に訪れても、すぐに去ってしまうからだ。

世界各地にそんな伝承が残っているが、民はあまり気にしてもいない。名前も知らず、銅像もない英雄など本当にいたのかも定かではないし、そもそも平和というものについてあまり考えもしないのだ。

 

 

 

 

 

エピソード1

ななちゃん 世界樹 -妖精さんを仲間にするには?-
なな

 15歳。中学3年生。それは人生で一番の分かれ道。

どっちに進むかで人生が大きく変わってしまう。人生が決まってしまう。

 

自分がどちらに行きたいかわかっていても、そうもいかないこともある。

ななは声優になりたいと思っていた。そのために普通高校に行くのはあまりにも遠回りに見え、だからダンススクールのようなものに進みたかった。しかし「そんな高校はないわよ!サラリーマンにもお菓子やさんにもなれるように、普通の高校に行きなさい」と親は頑なに言うのだった。

な「でも今どき、小学生からダンススクールに通ったりするんだよ?高校出て専門学校からダンス勉強したって、追いつけるわけないじゃん」

母「大丈夫よ!あなたは独特のセンスがあるし、とても可愛い声しているじゃない」

な「エヘヘ、そうだけどさぁ」

ななは反撃をしても、すぐ母に言いくるめられてしまうのだった。

母の「大丈夫よ」の意味を、ななは理解していなかった。母としては、普通高校で過ごしているうちに、声優になりたいなどという憧れは醒めるだろうと読んでいた。人の憧れなど、そう長くは続かない。そこから目を反らしてやれば、若者の人生を操ることなど容易いのだ。

ななの母は大手のテレビゲーム会社で、広報としてキャリアウーマンを地で行く女だった。

 

いつも陽気で明るい女の子だったななだが、最近は少し、無表情な日が増えていた。

落ち込むことがあれば家でくつろいでいたいインドアなななだったが、母と意見が対立するときは家は居心地が悪い。近所をふらふらとほっつき歩き、しかし日差しの暑さに滅入ると、ななは通りがけの喫茶店のドアをくぐった。

商店街には幾つかの喫茶店があったが、ななはなんとなしにその店を選んだ。15歳に喫茶店は敷居が高いが、ここなら昔、父に何度か連れてこられた記憶がある。

 

~Cafe水平線~

カランカラン。ドアを開けると、中では軽妙なケルト音楽のBGMが流れていた。

店「いらっしゃい」店主は静かに言ったが、ななにその声は届いていなかった。

ななは隅っこのテーブルに静かに腰をおろした。店を見回す。古びたギターが壁にかけられ、他にもシタールだか何だか、名前も知らない民族楽器が幾つも飾られている。ファンキーな模様のマラカスも置いてある。

「昔よりガラクタ(楽器)の数が増えたような」とななは思った。

しかし、バグパイプの軽妙な音楽と物珍しい楽器たちに囲まれ、ななの憂鬱さは薄らいでいった。大好きなファンタジーアニメの世界に、なんとなく似ているのだ。コッテリしていて、古めかしくて、どこか少しフシギである。

ななはカフェオレを注文して、手持ち無沙汰に待った。ブラックコーヒーは苦くて飲めない。カフェオレすらも怪しい。

やがて店主が静かにカフェオレを運んできた。

店「どうぞ」

ななは店主の顔も見ず会釈もせず、まだ少し残る胸のイガイガを流し去るように、カフェオレをごくっと飲んだ。

な「あ、美味しい!」

想像していたより苦くないのだった。

店「苦いコーヒーは苦手かな、と思いましてね」店主はニコッと笑って、すぐに立ち去った。

ななは店主の背中をしばらくぼーっと眺めていた。

 

店主はそれ以上、ななに話しかけてきたりはしなかった。

ななはしばらく、ケルト音楽と妙な異世界的雰囲気に浸ったのち、店を出た。

何かがとても楽しいかと言えばそうでもないが、この店の雰囲気にぼーっと浸ることで、胸の悲しみやストレスをしばし忘れることには成功していた。

会計を済ませると、店主はななに「これはオマケです」と何かを差し出した。

ななは手のひらの物体を眺める。

どこかの国の、おかしな顔のお面のキーホルダーだった。

な「ぷぷっ!センス無っ!」

そのお面のおかしさと、あの寡黙な店主がそれを差し出したギャップに、ななは思わず吹き出して笑った。

 

 

しかしそれからというもの、ななの表情はかげるのだった。

あの母との小競り合いから、声優方面の学校に進むのはもう無理なのだと、能天気なななでも悟ったのである。

いや、声優やダンスの学校に進みたかったというよりは、普通高校に進むことに大きな憂鬱を感じていた。それは勉強の苦手なななにとって、刑務所に入るのと大差ない地獄に感じられた。

アニメを眺めれば、高校のスクールライフは恋愛や部活やくだらないハプニングに彩られてとても楽しい・・・と訴えてくるが、現実がそうだとは思えなかった。

 

刑務所へと続く一本道から大きく反れる方法はないものか?ななは少ない脳みそで考え、そしてすぐに考え疲れた。



なな

6月23日生まれ 15歳(中学3年生)

155cmくらい 45kgくらい Cカップくらい


bottom of page