エピソード102
また、道具屋の店主はこんなことを言う。
道「世界樹だって?そんなのたくさんあるよ」
4人「えー!!??」
道「知らないのかい?みんなが買ってくこの8ゴールドの《やくそう》。
これは世界樹って植物の一種だよ。
世界樹は癒しの力の強い植物なんだ。
だからこんなちっぽけな薬草で、結構な傷が回復しちまうわけさ。
《やくそう》が世界中に出回るようになったのも、ある意味ゃ魔王のおかげかもね!なんつって!」
ア「いや、ちょっと待って!
《やくそう》が世界樹の一種っていうのは驚いたけど、そうじゃなくてさ?
そんなありふれたものじゃないはずなんだ。なんか特別な場所とか、特別な樹とかあるはずなんだよ。
『世界樹を目指せ』って僕ら言われたんだ。それが《やくそう》のことなはずはないよ」
道「目指せって?誰にだい?」
ア「え、それはまぁ・・・ヘンテコな爺さんにさ・・・(汗)」
道「あははは、酔っ払いの相手はしてらんないよ!」
謎の真相にまた一歩、近づいたような、遠ざかったような・・・。
数日後のこと。今日は国民投票の開催される日だ。
先日の食堂でまた昼食を食べようと出かけると、その日は「臨時休業!」というプラカードが掛かっていた。
な「どうしたのかなぁ?風邪でもひいちゃったのかなぁ?」と4人が戸惑っていると、
女「そこの亭主なら、デモに出てったわよさっき!」と近所のおばさんがひそひそ声で叫んだ。
4人「デモ!?」
城に近づけば近づくほど、なるほど街がざわついている。
「撤廃しろー!」などと叫ぶ声や、それを囃し立てる野次馬のような騒ぎ、煙たがるひそひそ声、様々な声や音、感情で街がグチャグチャしている。
察して城まで行ってみると、大勢の人が集まっていた。
デ「テレビジョン反対ー!」
デ「火力発電を増やすなー!」
要するに、食堂の店主が案じていた内容によるデモ運動だった。
町「国民投票の結果に委ねればいいのに」
町「デモなんて下品ねぇ」色んな意見もある。
議会が城にあるゆえ、デモ隊たちは城の前に集まっているのだ。その野次馬たちも。
聴衆をかき分けて前まで出てみると、城のテラスには国王らしき男が出て演説を始めようとしていた。
王「静粛に!諸君。静粛に!
国民投票の結果は出た。
火力発電所を増やしてテレビジョンの充実を支持する声が多数、だ」
町「うぉーーーーー!!」
王「静粛に!
それに反対する声があるのも頷ける。火力発電はリスクも大きい。
しかし、便利、快適、楽しい暮らしが人を幸せにするのも事実だ。
テレビジョンを国外に輸出すれば、この国はすさまじいほどに潤うだろう。民は豊かになる!」
町「うぉーーーーー!!」
町「テレビジョンの普及を促したのはおまえだろーー!」
王「静粛に!
いやいやわかっておる。豊かばかりが幸せでもない。
わしは別に、テレビジョンを支持する者ではない。
たしかにテレビジョンの開発や普及の政策に力を入れたのは、過去のわしだ。
しかし今のわしはそうではない。今は中立。
国民の意思に、委ねるのみよ」
それだけ言うと、王はテラスから姿を消した。
民「国王のせいじゃないぞーーー!」
民「屁理屈だーーー!!
様々な声が飛び交っている。
キキはデモ隊の中に例の食堂の店主を見つけた。
キ「おじさん、このぬいぐるみ、持ってくれない♡」笑顔で奇妙なおねだりをした。
店主はぽかんとしながら、キキからかわいいウサギのぬいぐるみを受け取った。
キ「ちょっとそれを、頭の上に高く掲げていてくれる?1分だけでいいの」
店「なんだ?」
キ「お友達とはぐれちゃったのよ。探したいの♪」
店「ふうん」まぁいいか、と店主はそれに従った。
キキは店主の足元にしゃがみこみ、大きく息を吸い込んだ。
キ「ねぇ聞いてーーーー!わたしはうさ子ぉぉ♡」
妙なパフォーマンスに、周囲の視線が集まった。
キ「テレビジョンの快楽に一度中毒してしまったら、それを取りやめる法案に賛成できる自制心ある人なんて、どれくらいいるかしらーー?」
民「うん?」
民「なんだ?」
ざわざわ。ざわざわ。
キ「もしかして、国民の大半がテレビの中毒に抗いきれないことなんて、始めから予測してたのかもねぇあの人はぁー。
それなのに、『わしは中立』なんて言ってるのかもねぇ~!」
それだけ言い終えると、キキは店主の足元からひっそりと姿を消した。
ざわざわ。
キキは3人に合流すると、振り返らずに言った。
キ「さ、次の街に行きましょ♪」
「多数決」「民主主義」「他人の意思を尊重する」などと言っていても、大衆をコントロールする支配者はいるのだ。
「大衆」という大きな船は、結局のところその民度から、次の出来事へのリアクションは予測可能だったりする。