エピソード103
一行は、次の目的地をイシス国のピラミッドに定めた。
ピラミッドは遥か北方の、砂漠の地にあるらしい。
砂漠と言えば、妖精の里に行くときに赴いたことがある。あの時は大変だった!という記憶が一行にはあった。なにしろ厳しい日差しを遮るものがない。木陰すらない。目を癒す緑がない。
それに比べて今は馬車がある♪だから大丈夫だ!と思ったが、そうは問屋が卸さないのだった。
砂漠というのは不思議なもので、昼間は灼熱地獄とも形容したくなるほど暑くなるくせに、夜になるととても冷え込むのだ。それは凍え死にそうなほどだ!これも、一行には幌馬車があったからまだマシではあったが、一般の旅人にとって砂漠を渡るということがどれほど苛烈なのか、想像に難くないのだった。
砂漠の困難はそれだけではない。この荒れ果てた地を渡る人はそう多くないため、道がないばかりか立札もほとんど見かけない。隊商の通った轍が道の代わりであったりするのだが、それとて風に砂が運ばれ、道が消えてしまうこともある。
わずかなオアシス、わずかな食糧、わずかな情報を渡り継ぎながら、慎重に旅する必要があるのだ。そして、太陽の位置を見ながら方角を把握する必要がある、とキキは皆に教えた。
花も咲かず、緑もない枯れ果てた地はよもや人を憂鬱にもするものだったが、「これはこれで絶景だ」と感じられなくもないのだった。そう思える者は、先に進めるのだろう。
話は少し遡る。
砂漠に踏み入れて最初のオアシスに辿りついたときのことだった。
人の少ない地に《WANTED》は少なかったが、一行は人助けをやめなかった。村を歩いていれば困り人を見かけることもある。助けてやれそうなものは手を差し伸べながら進んできた。
手前の村でも、出稼ぎを経て故郷に帰りたがっているジージョという青年を馬車に乗せてやっていた。
5人は見かけたオアシスで休息を挟む。
一行が休息の宿屋を探してウロウロしていると、商人らしき男が話しかけてきた。
商「おまえたち、ギルは持ってるのか?」
ア「ギル?ギルって何?」
商「やっぱりなぁ。この辺りの通貨のことだよ。砂漠じゃゴールドは通じないぜ?
このまま砂漠を突き進むつもりなら、この村でギルに両替すべきだよ」
ア「そうか。お金自体はそれなりにあるからね。両替え屋があるならなんとかなりそうだよ。
どれくらいのレートなの?」
商「100ゴールドが100ギルだ。大体な」
ア「そっか。わかりやすいね。
5000ゴールドくらい両替えしておくかな?」
商「5000!?あんたらそれしか持ってないのか!?」
ア「いや全財産は10万ゴールドくらいはあるけど」
商「じゃぁ10万ゴールド、根こそぎギルに替えておきたまえ!
言っただろ?ここからはゴールドは使えないんだからさ。ギルで寝泊まりするし、すごい武器を買ったりすることになるのさ」
な「お金、多めに持っておいたほうがいいんじゃない?」
ジ「いや!」ジージョが口を挟んだ。
ジ「最低限の両替えだけでいいと思うよ。
こいつらは両替えで手数料を得たいから、大金を替えろと勧めてくるんだ!
砂漠の国のことを親切に教えてるフリして、無知な余所者からむしり取るんだよ!」
商「な、なに言ってんだよ!
カネは多く持っておくにこしたことはねぇだろ!」
ジ「砂漠じゃ大した買い物はしないよ。入り用になったらそのときに両替えすればいい。
両替えってのは金額に比例して手数料を取られるんだから。
ゴールドに戻すときだってまた手数料が要る」
ゆ「5000ゴールドくらいで様子をみときましょ!」
一行はジージョの忠告に従って、大金の両替えは自重した。
ジ「砂漠の国の商人たちはガメつい奴らが多いから、くれぐれも気を付けたまえよ!」
一文無しの若者を助けても、お金に替えられないお礼を受け取ったりするものだ。