エピソード112
―オルフィー―
砂漠を出てほどなく、町を見つけることが出来た。
砂漠でもなくイシス国でもなく、通貨はまたゴールドに戻っている。適正なレートでゴールドに両替することも出来た。
一行はちょっと安心した。
町自体に大きな特徴はないが、心なしか人種が多様であるように見えた。様々な肌の人がいる、ということだ。
「東側は西側よりも多民族な文化だよ」と町民が言っていたが、それにしても多様であるように見えた。
町を歩いていると、エリアによって肌の色や宗教を分けて暮らしている感があると気づく。
大通りに出れば多民族がごっちゃに交わるが、暮らし自体は自分に近い者たちと営みたい、という気持ちはあるようだった。
ななやゆなが暮らしていた社会では、他の民族に対してあまり寛大ではなかった。肌の色の違う子が学校に転校してくると、いじめられたりハブられたりすることが多いものだった。
ゆ「ここは皆が仲良くしていて偉いですね」とゆなが八百屋の男に言うと、
店「なぁに、ケンカをしないってだけさ。仲良しというのとも違う」とさらっと言うのだった。
ゆなは学校で、「ケンカをしないためには皆で仲良く遊びなさい」と言われたものだった。しかしゆなより二回りも無神経な子たちと一緒に遊ぶのはとても苦痛だと、ゆなは感じていた。そして結局はケンカや問題が起こる。
「仲良くするわけじゃない。ケンカをしないようにする」という距離感は、深い考えだな、とゆなは思った。
もし国に帰るなら、地域の中でそれを真似てみたい、と思ったが、頭の中でシミュレーションしてみると、一朝一夕に実現できるものでもない気がした。
多人種が長きに渡って混じり合う暮らしの中で、徐々に熟していった文化なのだろう。
民族だの距離感だのと話していると、近くに修道院がある、という情報を得た。
この町で暮らせない者もおり、修道院という安全地帯の中でひっそりと生きようと決意する者もいるのだ。
どのような暮らしなのだろうか。一行は興味が湧いた。
商店の主人が言った。「ちょうどよかった。日用品を届けてやってくれ」
一行にとっても、厭世的であろう彼女らと打ち解けるために都合の良いお遣いであると思えた。
小高い丘のふもとに修道院はあった。長い尖塔を持つ建物だ。余所者にもすぐわかる。
しかし修道院は、ずいぶん遠くから小さな柵に囲われていた。畑を持つからだろう。人の侵入を防ぎたいのか動物や魔物の侵入を防ぎたいのか、それはよくわからない。
馬車がカポカポと音を立てながら近づくと、静かな修道院では扉の前で一行を出迎える者がいた。
女「どのような方でしょう?」初老の修道女は、警戒するとも歓迎するともとれない顔で尋ねた。
ゆ「町から日用品のお届け物に来ました。
えっと、私たちは旅人です」
どちらかと言えばいつもは自分たちが他者を警戒しながら過ごしてきたが、自分を警戒する人々とどう接してよいものか、急に直面すると戸惑うのだった。
女「あらまぁ」
キ「つまりわたしたち、変わりものなんです♡」
キキは奇妙な自己紹介をした。「善である」と主張するよりも、「普通の冒険者とは違う」と謙虚に自己紹介するほうが、疎まれにくいだろうとキキは考えたのだ。
そして修道女は一行に門戸を開けた。