エピソード113
まだ日は高いので、れいはゆっくりとラオの町を巡った。
そして町のはずれに素朴な温泉宿を見つける。中心地から離れているから交通便は悪いが、町のはずれにあるから眺望が良さそうだ。れいは歩くことに慣れている。道具屋や食堂までその都度10分掛かっても、別に気にならない。
その宿は宿泊料金も10ゴールドだった。道具屋が言っていた最安値の価格帯だ。
年老いた店主は素っ気ないが、悪い人でもなさそうだ。余計なものを押し売りしてきたりはしない。
れいは早速、温泉とやらに浸かってみることにした。
大丈夫。ちゃんと女性専用の露天風呂というのがある。露天というのは外の眺望を堪能できる、という意味だ。
熱い!温かいというよりも、湯温は熱いのだった。体がピリピリと痛いほどに熱い。
れいは面食らって、すぐに出てしまった。店主に「お湯が熱すぎるのだが」と言ってみた。
しかし、「温泉ってのはそういうもんなんだ。どこに行ったって熱いよ。しばらく我慢してりゃ、そのうち慣れるさ」とさばさばと返された。
れいは言われた通りに、熱くても黙って我慢をして、しばらく浸かってみた。
雄大な景色を眺めていれば、多少は熱さも忘れられる。多少は。
やがて耐えられなくなって風呂の外に出る。うろうろと歩くと、井戸があるではないか。冷たい水が汲みだせる。
れいはその冷水をザバっと浴びた。体を冷たくリフレッシュして、そしてもう一度熱い温泉に浸かった。
興味深かった温泉が熱すぎたとて、3分で出て不機嫌になって町を去るのは、もったいないと思ったのだ。健康に良いというし、美肌に良いというし、何かもっと楽しめる手段はないかと、頭をそう働かせながら風呂場をうろうろした。
そして水でクールダウンしながら何度も入る、という方法を思いついた。それなら結構長い間、温泉にも浸かっていられた。
2時間も浸かった後、湯気を立てながら赤い顔で廊下を歩いていると、
「あんたちょっと長い時間浸かりすぎじゃないか?」と店主に心配された。
店「温泉に体が慣れてるのか?」
れ「いえ。初めてです」
店「じゃぁあんまり無理しないこったな。
人間の体ってのは、熱いお湯に浸かってるだけでも結構くたびれるんだよ。
今は何も感じないかもしれないが、明日は筋肉痛になってるぜ、きっと」
れ「そうですか」このときれいは、店主の忠告がピンとこなかった。私は体も鍛えてるし、大丈夫だろうと思った。
しかし翌朝起きてみると、全身がものすごい倦怠感で動かないのだった!
昼まで起きてこないれいを見て、
店「はっはっは。だから言っただろう」と店主は笑った。
店「今日は無理をしないこった。じきに体が慣れるよ」
しかしれいは懲りずに、この町に1週間も滞在した。
田舎が好きなれいだ。絶景を眺めながら露天風呂に入るのはなかなか乙なものだった。1か月も湯治をするというのはちょっと退屈すぎるし、別に病気の自覚もないゆえ必要性も感じない。しかし1泊だけのミーハー観光客たちとは異なる感覚を、体験してから去りたかった。