エピソード116
お腹が膨れる頃。
ミ「村で採れたものです。どうぞ」
と言って、ミカエルは紫色の飲み物を一行に注いだ。
一行には嫌な記憶がよみがえる。
ア「これ、ワインだったりしないよね?僕らお酒は飲めないよ」
ミ「ワインではありませんよ。お酒でもありません。ブドウジュースです」
ミカエルはそばの小さな少女にその飲み物を飲ませてみせた。
ゆ「私たち、他の原住民族に歓迎のお酒を飲まさて大変な目に遭ったことがあるんです(汗)」ゆなは率直に言った。
ミ「察しております。
だから敢えてそれを再現しました。
どこかの村に訪れて、食事や踊りでもてなされれば嬉しいでしょう。
しかしそれがすべて善い人とは限りません。人の施しを疑うのは心が痛みますが、しかしその警戒心は必要です。今の世ではまだ。
これからまたどこかで、食事や踊りの歓待を受けても、くれぐれも気を付けてください」
ア「お酒の匂いはしないみたい」アミンはジュースを口で転がしながら言った。
ミ「はい。天使たちはお酒を嫌います。
ですから飲みませんし、人に勧めることもしません。
お酒が危険なものだとわかっていますから、それを他人に勧めることも好みません。
あなたがたの社会の中に潜む天使も、同じ様な行動をするかしれませんね」
ゆ「誠実な人を見分ける目安になるよ、ということ?」
ミ「まぁ天使の転生者のすべてが誠実とも言えませんが。
地球人よりは少しマシな人が多いでしょう。
ゆなさんがななさんにシンパシーを感じたように」
ゆ「私たちそろそろ帰らなくちゃ!」
ミ「泊まってゆかれても良いですよ。粗末な寝床しかご用意できませんが。
就寝中は盗難や犯罪が最も不安なものです。
屋敷の中に馬車を入れ、その中で眠ってくださってもかまいません。
あなた方が安心できる形をとってくだされば、何でも。
出来そうなことであれば、この子たちも私もお手伝いいたします」
「この人は全面的に信頼してよいのだな」と一行は悟った。
そしてお屋敷の中に寝床を作ってもらうことにした。
な「お礼をしなくちゃ!お金はいくらですか?」
ミ「うふふ。お金など結構です。
私たちはお金を使わずに暮らしておりますので。
どうか少女たちにもお金など与えないでください。良からぬものを買ってきてしまうだけです」
な「でも、何かお礼がしたいよ?」
キ「そうだわ♡」
キキが思いついたお礼は、「踊りのお返し」だった。
ななとゆなとキキの3人で、得意のダンスを披露することにした。
屋敷には益々多くの民が集まってきた。子供たちだけでなく大人もやってきて、嬉しそうに観覧するのだった。
長は言った。
ミ「素敵な贈り物をどうもありがとうございます!
天使たちは躍りが大好きなのです。
この里の天使たちだけでなく、およそどこの文化に生まれても、天使の子は躍りが好きです。可愛い衣装を着て踊りを踊りたがります」
な「まりんちゃんも天使だったのかな?」
ゆ「そうかもね!」
な「ミカエルさんは旅の人が怖くないの?」
ミ「部外者を怖がらないから長をやっている、とも言えますが・・・
私は父が部外者でしたので、部外者を無暗には恐れないのだと思います。
私の父は、世界をさすらう吟遊詩人でした」
ゆ「え、まさか??」いや、ハーゴン討伐の後に世界を周った吟遊詩人は、500年前の人だったはずだな。ゆなは無暗に話を膨らませることは控えた。