エピソード118
「船に乗って冒険に出る」そんな言葉を母親は口にした。
れいは海賊になりたくはないが、船に乗って大海原を越えていくことには、憧れや関心を抱かずにはいられなかった。
「船に乗って遠くに行けるのですか?」とトロデーンの町人たちに尋ねる。
すると、東の海岸沿いには、大陸を渡る大型客船の出る町があるという。
当初は海沿いの町を幾つか巡ろうと考えていたが、磯の臭いが好きではないので内陸に入ることにした。
大型客船の出る街ならとても大きなものだろう。海沿いに行かなくたって見つかるはずだ。
午前中はずっと眩しいが、東へと向かう。光の向こうに何があるのか、ワクワクするじゃないか。
追い越していく荷馬車が、この先に城があると教えてくれる。船に乗る前にもまだ幾つか、城や町に出会うのだろうか。良いのだ。船に乗ることを焦ってはいない。
やがて城が見えてきた。城壁が。なんと、世にも珍しい空色の城壁を持つ城下町であった。
れ「うわー!」れいは思わず感嘆の声を上げる。ねずみ色であるはずの城壁が透き通るような空色をしていれば、それだけでも美しいのだ。いや、それだけでないのだった。近くまで行ってみると、城壁には無数の絵や彫刻が施されていた。水色の壁に白い塗料で描かれているか、掘った溝を白い塗料で埋めている。その芸術は城壁をぐるっと、どこまでも続いている!
近くの城門から中へと入ってみる。
サマリントという国であるらしい。
城門の中は、馬ではなくラクダが闊歩し、馬車に乗らず、人はラクダの背に乗っている。れいはラクダという生き物を初めて見た。馬よりも大きくて、ユニークな体つきをしている。こんな細い脚で、人を乗せて歩いて大丈夫なのか!?心配になってしまった。
城門の中も空色である。建物の多くは空色の壁を持ち、国の雰囲気は空色で統一されていた。家の壁も城壁街と同じ様にたくさんの絵や彫刻で彩られ、それはもっぱら白い塗料なのであった。色の数が少ない街だが、統制されていて美しい。空色と白という組み合わせは、まるで空の上にでも居るかのように、さわやかで美しいのだった。
ガーデンブルグに訪れたとき、こんなに美しい街は他にないだろうと思ったが、サマリントもひけを取らないのだった。色んな美しさがあるものだ。れいは感動する。いつか、芸術というものもじっくりたしなんでみたいものだ。いいや、旅をしながらだって良いのかもしれないが。
そしてれいの羽織る青いローブは、この空色の街によく似合っていた。だから町人は、なんとなしにれいに好感を抱くようだった。