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エピソード119 『天空の城』

エピソード119


れいはまず腹ごしらを求め、食堂を探した。外にテーブルを置く店を選び、外のテーブルで空色の町を眺めながら食べた。


エピソード119 『天空の城』

食事を運んできた店主は、「サマリントにようこそ」とにこやかに言った。

れ「ここはとても平和な国ですね!」と、褒め言葉のつもりで言った。

店「いや、そうでもないんだよ。色々悩みを抱えているさ。

 王位継承問題なんて、結構大層な悩みじゃないかい?」

れ「そうなんですか」

店「次期国王になるはずだった姫さんがね、数年前に家出しちまってさ。マリア姫ってんだ。

 国は後継者がいなくて悩むし、王族が家出したって外国に言うのは恥ずかしくてまた悩むし・・・。

れ「お姫様はどうして家出してしまったんですか?」

店「知らないよ。

 あんたの言う通り、やっぱ平和な国さ。ここで王をやるのは悪くないと思うけどな」

れ「ふうん。とても平和そうに見えます。

 芸術で溢れかえっていて、素敵です」

店「そう。戦うことがキライで芸術が大好きな国民性だよ。

 でも芸術マニアってのも良いことばかりじゃないんだよな。

 観光客を呼んじまうんだよ」

れ「それが、良くないことなんですか?」

店「観光客を呼びたい国も多いんだろうけどさ、サマリントはそうじゃない。

 だって大勢人が来れば、国が汚れるし乱れるんだ。

 別に外国人に褒められてたくて絵を描いてるわけじゃないんだ」

ふうむ。色々な問題があるものだ。

店「あんた冒険してるんだろ?

 マリア姫を見つけたら連れ戻してやってくれよ。それが国民の願いなんだ」

れ「あ、はあ」


れいは街の散策を続ける。

民家が多く、人が出入りするようなお店というのは数が少ないと見受けられる。あまりお金を使わない民なのだろうか。普通、芸術が好きなら服飾品の店など多いものだが、そういう気配もないのだった。

店は、市場として一角にまとめて設けられていた。食料品から服飾まで何でもありそうだ。立派な装飾のついた、銀色の皿やティーポットなども並んでいるが、古びて見える。誰も買わないまま時間が経ちすぎてしまったのか、または中古で売買されているか。銀製品は長く使えるので、中古品が積極的に取引されているのだった。

余所者と一目でわかるれいに話しかけてくる商売人は、ほとんどいなかった。良くも悪くも内向きな市場であるようだ。

エピソード119 『天空の城』

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