エピソード129
2日後、武器屋にはまだ無事、《奇跡のつるぎ》は残っていた。
武「毎度あり!」
れ「これで勇者の洞窟に挑めそうです!」
武「あぁ、勇者の洞窟に行くんだったら、たいまつを買っていく必要があるぞ。
あそこはランプも何もないんだ。何もなきゃ真っ暗になっちまう」
れ「そうなのですか、どうもありがとうございます」
れいには《レミーラ》がある。
しかし、《キアリー》があっても《毒消し草》を携帯するのが冒険者の心得だ。1つくらいは《たいまつ》を持っておこう。
れいはそう考え、道具屋を覗いた。
道具屋には《たいまつ》がたくさん並んでいる。おや?通常の《たいまつ》より大きなものもある。
れ「他の街では見ない《たいまつ》がありますね」
道「勇者の洞窟に行くつもりかい?それならこの大きな《たいまつ》だよ!より広く、より長く火を灯せるからな!洞窟において視界は命の次に大切ってもんだ!」
れ「いくらですか?」
道「大きな《たいまつ》は50ゴールドだ。小さな《たいまつ》は40ゴールドだよ。大きいやつのほうがコスパがいいな」
れ「あれ?《たいまつ》って他の街では8ゴールドくらいで買えたような・・・」
道「そ、それはもっと小さいやつなのさ。うちのは小さいほうだって、他の街のより大きいんだよ!」
れ「ふうん」怪しい言いぐさだ。しかし《たいまつ》を1つも持たないわけにもいかないと思え、仕方ないので1つだけ買った。
れいはたいまつを眺めながら呟いた。
れ「《たいまつ》1つで40ゴールド!他の街の5倍だわ。そして50ゴールドのやつを買っていってしまう人も少なくないんだろうな・・・。
・・・!あ、そういうことか!」
れいは閃いた。
ラダトームにおいて冒険者たちは、やたらとお金を使わされることになるのだ。
王様のおふれを聞けば、誰もがこの街にしばらく滞在して報奨金を貰おうと企むだろう。しかし周辺は魔物が強いので、高額な武器や防具を買いたくなる。3人分、4人分も。
よほど強い冒険者にとっては、効率の良い金策になるのだろう。でもそうでもない者にとっては、おそらく、この金策は途中で脱落したり、飽きてしまう。すると、ラダトーム王のほうが儲かった、という結果になりがちなのだ。
また、正義感と猜疑心が強い者は、竜王とやらに歯向かおうとするだろう。するとなおさら、《奇跡のつるぎ》など超高額な武具を欲しくなる。そしてお金を浪費させられる・・・。
そしてどうやら、いくら魔物を討伐しようが、勇者の洞窟の奥からは延々と魔物が湧き続ける・・・。その魔物を排出しているのは?もしや竜王のしわざではないのだろうか?
竜王からすれば、人間たちが勝手に擦り減っていってくれる、のかもしれない。また、「世界の半分」の傘を取り合うことで、人間たちは勝手に争い合う。戦争も起こすだろう。魔物の形をした宝石を与えてやることで、人間たちは勝手に自滅していく・・・と企んでいるような気もする。魔力に満ちた竜王は、いくらでも宝石を生産できるのだろう。
そもそも結界とやらは、本当に「世界の半分」に覆いかぶさっているのか?それすらデマカセなのではないか?
れいの推理はそんな考察に至った。考えすぎなのだろうか?疑いすぎなのだろうか?
やはり勇者の洞窟に行ってみるべきだ。何かがわかるだろう。
れいは思う。悪者は悪者のように見えないことがあり、余計に厄介だ。大勢の人々がヒーローだと思って崇めていたりするから、なおさら厄介だ。
世界はなぜ悪が滅びないのか?悪か正義かわからぬ悪が多数暗躍するから、か。この戦いは複雑である。
40ゴールドの《たいまつ》を売る道具屋とて、冒険者の多くは「正義の味方」と感じているのだろう。この戦いは複雑である。