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エピソード12 『天空の城』

エピソード12


翌朝起きると、空はとてもすがすがしい水色をしていた。

が、れいはまるで大雪の日の朝のように布団から出ることが困難だった。体中が痛いからだ。昨日一日、冒険をして歩き続けたことで、体中が筋肉痛なのだった。

筋肉痛というのは不思議なものだ。体が自然治癒力を働かせれば、少なくとも筋肉痛を負ったばかりの時よりも翌朝のほうがマシであるはず。なのに、翌朝のほうが激痛に見舞われる。しかも、体が引きちぎれるような激痛だ。理屈に適っていないような気がする。よくわからない。しかし、その現実を甘んじて受け入れなければならないのだ。誰に文句を言うことも出来ない。

れいは朝起きたそばから《ホイミ》の魔法を試みた。少しは痛みが楽になった。

普通、宿屋に泊まれば体力は回復するものだ。朝起きがけから《ホイミ》を使う冒険者など稀に見る天然記念物だが、れいのように剣術の稽古もろくに積んだことのない、かつ鼻ったれの冒険者では、色々と例外もある。《ホイミ》を唱えると、全身の痛みが少しは楽になるのだった。



宿を出る。

すると、宿の前の道端に少女が一人、しゃがみこんでいた。ただ泥んこ遊びをしているだけだ。

この宿屋の子かしら。と思って、れいはあいさつをした。

女「お姉ちゃんも旅をしてるの?」

れ「そうよ」

女「お空の上には神様と天使ちゃんが住んでるんだって!」

れ「へぇ、そうなの!」れいは微笑んで少女の頭をなでた。

絵本や児童文学でもよく語られているものだ。空の上には天国という雲の国があって、神様や天使が下界を眺めながら暮らしているとかいないとか。



れいはテンペの村をゆっくりと歩いた。

この村はテンペ以外にも、蔓を編んだカゴを売る店が多い。そして軒下でカゴを編んでいる民家が多い。これもまたこの村の名産品なのだろう。

教会の前を通る。

掃き掃除に勤しむシスターに挨拶される。

れ「こんにちは」

シ「その様子だと、旅慣れない人でしょう。

 旅先では教会に赴くものですよ。教会では毒の治療や呪いの解除など、困りごとを解決してくれます。覚えておきなさい。

 また、その日にあった出来事を報告してアドバイスを貰ったり、悔い改めて心のケアをします。冒険者は忙しいでしょうけれど、そうして心の中にだけでも冒険の日記を記録するのですよ」

ふうん、そうなのか。教会というのは、れいにはあまり馴染みのないものだった。サランの村に教会は無いのだった。

れいは村の小さな教会を覗いてみる。殺風景な、清潔な教会だった。

神「短剣を提げて、りりしい顔を装備して、冒険に出るのかね」神父がれいに話しかける。

れ「あ、はぁ」

神「そなたに神のごカゴがありますように。ぷぷ」

れ「はぁ?」

神「いえ、何でもないのですよ」

教会というのは何なのか、よくわかったようなわからないような。

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