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エピソード13 『天空の城』

エピソード13


教会を通りすぎるとその横には、少し大きな家があった。家、なのか?店のように大きな間口を持った建物だ。

本がたくさん並んでいる。

れ「図書館かしら?」本好きのれいは関心を抱いた。

学「図書館ではない。研究所だよ。学者の家さね」

 日と風の当たるところにデスクを置いて、学者風情の男が本を開いている。

学「本を貸し出すこともあるよ。村の者にはね」

れいはその辺に転がっている本を適当に手に取り、ぱらぱらとめくった。

れ「何を研究しているのですか?」

学「色々だ。村に学者は私しかおらんから、色々研究しなければならない。あぁ忙しい!

 魔法の研究もするし、医学や食事、健康についての研究もする。他にも色々だよ」

れ「物知りなのですね!」

学「いやぁここにある本など世界の万分の一にも満たない。100年生きたってロクに研究は進まんよ。

 しかし旅はいいぞ。それは最高の学問だ。

 なにしろ答えがない。

 1問解くのに100日も掛かるんだからな。

 教会の神父は、『神のご加護があります』とか『神に見守られています』とか言うがね。

 いいや違うよ。旅はそんな甘いもんじゃない。

 100日掛けたって解けない問題もある。答えのない問題すらある。

 答えを見つける前に死んじまうかもしれないんだから、くれぐれも慎重にな。『きっと大丈夫!』なんてもんじゃないよ」

なぜ学者というのはこうもよく喋るのだろう。


れ「あぁ、魔法も研究しているとおっしゃいましたね?

 私、《ホイミ》しか使えないんです。でもこれから広い世界を見に行こうと思っているんです。もっと魔法を会得したいと思っているんですが・・・」

学「そうか!それなら1つ、冒険の初心者に打ってつけの魔法を私が伝授してやろう」

れ「え、本当ですか!」《メラ》かな?れいはついに自分も魔法でえいっと魔物をやっつけられるようになるのかと、ワクワクした。

学「《ホイポイ》という魔法だ」

れ「ほいぽい!?」聞いたこともない。

学「聞いたこともない!という顔だな。冒険者たちが話題に出すことはほとんどないが、しかし多くの冒険者が当たり前のように心得ている魔法だよ。

 これは『凝縮と物質化』の魔法だ。武器や防具、所持品が増えすぎたらどうする?そんなときにこれを使う。アイテムがかさばるとき、この魔法で微粒子のカプセルに閉じ込める。それは術者のエネルギーフィールドの中に格納される。つまりカプセルを失くして困ることもない。

 取り出したいときはそう念じればよい。目の前にポンと現れる」

れ「へぇ!」

れいはあまりピンときていなかったが、特に一人で冒険をする者にはとても重宝する魔法なのであった。

学者は立ち上がると、地面に何やら魔法陣を描いた。

れいの頭に手をおいて、何やらぶつぶつと唱える。

「むーん、はっ!」

れいの体が青白い光で包まれた!

学「儀式は成功したよ」

れ「え?え?」れいはまだこの現象に慣れない。

学「試しにその短剣を、《ホイポイ》で収納してみなさい」

れ「どうやるんですか?」

学「ただ《ホイポイ》と唱えて、小さく凝縮されることをイメージすればよい」

れいは言われた通りにやってみた。

れ「《ホイポイ》!」

ぽんっ!

れいの《聖なるナイフ》は、手品のようにふっと消えてしまった!

れ「わわっ!無くなってしまいました!」

学「だから凝縮されたんだよ。見えないくらい小さく。

 もう一度今度は、それを物質化するイメージを持って《ホイポイ》と唱えてごらんなさい。なんなら心の中でつぶやくだけでもよい」

れ「《ホイポイ》!」

ぽんっ!すると今度は、れいの両手の上あたりにぽんと、《聖なるナイフ》が現れた。れいは慌ててキャッチする。

学「そうそう、それでよい」

れいは、これが地味に便利な魔法であることがじわじわとわかってきた。

れ「ありがとうございます!」

学「あー、一つ大事なことがある。

 その魔法はな、自分で凝縮したことを忘れたままだと、この世から永遠になくなってしまうからな!気を付けたまえ」

れ「あ、はい」

学「武器や防具が要らなくなったら、基本的には店に売るんだ。

 そうすればお金に換わるし、また誰かが使ってくれる。

 道具の多くも買い取ってくれるよ。買値の3/4くらいの値が付く。馬鹿にならん金策さ。

 まぁだから墓荒らしだのダンジョン荒らしだのという物騒な冒険者まで増えるのだがね。はっはっは」

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