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エピソード148 『天空の城』

エピソード148


翌朝、れいは炭坑へと出かけた。

宿屋の主人に聞くと、炭坑はちょっと遠いらしい。普通は馬車を駆って行く。歩いたら1時間はかかるかもな、とのことだ。まぁいいか。見知らぬ土地において、歩行はすべて散歩であり、観光のようなものだ。


おかしいな。時間は今9時頃だが、炭坑に向かう炭鉱夫の姿はまったく見えない。

あ、そうか!きっとエンゴウの炭鉱夫たちは朝がとても早いんだわ。4時には起きて5時には山に行くのね。だから夕方からもう晩酌をしているのね。れいは勝手に推理をして、勝手に納得した。

しかし・・・


やがて炭坑に到着したのだが、そこにもやはり、人の姿がない・・・

まさか魔物に襲撃されたのか!?一瞬そう思ったが、れいのこれまでの経験を活かせば、それは無さそうに思える。血の臭いはないし火薬の臭いもない。砂埃が舞ってもいないし、鳥たちがざわついてもいない。

れ「よくわからないわ」れいは一人で小首をかしげ、中に入っていった。

誰もいないということは、れいを通せんぼする者もいないということだ。「部外者は立ち入り禁止だ!」と止められ、町長に頼まれたと言ったところで理解されないことがある・・・ともう色々予想が付く。それがないなら好都合だ。


炭坑の中もとても静かだ。ランプも灯っていない。

れいは自前の《レミーラ》で視界を確保し、奥へと進んでいく。どこを掘っていいのか、どの岩が良い鉄鉱石なのかよくわからない。誰かに聞こうと思ったのだが・・・。

何か手がかりはないものかと、結局ダンジョンのようにウロウロとさまよい歩く。まぁそれも楽しい。れいにとって、迷路を歩くのはすっかり楽しくなってしまった。


するとやがて、大きな部屋に行きつく。手押し車が放置されている。「先日までここを掘っていました」という雰囲気に見える。

れ「とりあえずここにしようっと」れいは独り言を良い、ツルハシを取り出してキンキンとやった。

採取したものを手押し車に乗せ、そして手押し車ごと《ホイポイ》で凝縮した。



昼頃にはエンゴウの町に戻ってこれた。れいはサンドイッチを食べながら町長の家へ向かった。

れ「鉄鉱石を、採ってきました」

町「おお、どうもありがとう!さぁさ、少しはお礼をしたいのだが、仲間をみんな呼んできてくれたまえ」

れ「いえ、私ひとりです」

町「何!?まだ少女に見えるが!君一人で炭坑まで行き、採ってきたのかね?」

れ「えぇ、旅も長いもので、もう色々と一人で出来るようになりました」

町「そうか。まったく信じられんが、君しかいないなら君をもてなすだけだ」

町長はれいに昼食を振る舞い、そして少しの礼金を渡した。


食べながら、れいは尋ねる。

れ「あのう、炭坑には誰もいませんでした。

 今日は皆さんお休みなのですか?」

町「今日だけじゃなくずーっと休んでいやがるんだよ。はっはっは。もう1週間だな。

 だから余所者に依頼しなきゃならないのさ」

れ「えぇ!?」

町「ストライキだよ」

れ「すとらいき、ですか?」れいはその言葉を初めて聞いた。

町「ストライキというのはだな、労働者たちがみんなで、仕事を放棄することだ」

れ「あぁ、夕暮れ前からみんなお酒を飲んでいました。

 この町の男たちは堕落してしまったのですか?」

町「いや、えーっと、彼らが悪いとも言い難いのだが・・・。

 そのう・・・とにかく彼らは、働くことが不服で放棄したのだよ。それで君に頼んだ」

れ「私が頼まれた経緯はもう良いです。

 それよりも、そのストライキというものの事情に興味があります。

 町の炭鉱夫たちは、堕落した悪者なのですか?」

町「うーん。私の口からは何も言えんなぁ・・・。

 組合のせい、とも言えるかもしれんが・・・」

町長は、奥歯にものが挟まったような説明しかしないのだった。

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