エピソード14
れいは、さらに学者に食いついた。
れ「私、魔法に興味があります。いずれはたくさんの魔法を使えるようになりたい。
魔法というのはどうやって習得するんですか?」
学「魔法の習得方法は様々ある。
戦闘を重ねたり、魔法の発動を重ねたりすることで自然と会得することもある。
多くの場合は、魔法に長ける者から伝授を受けることになる。儀式(イニシエーション)だ。
教会の神父や、町の長、私のような学者、老練な魔法使い・・・そのような者にイニシエーターは多い。
あとは、町の中に魔法屋があることもある。お金を払うことで伝授を受けるんだ。
とても賢いなら、魔導書を解読することで自分で身に付けられる者もいる」
れ「へぇ、色々あるのですね」これは覚えておかなければ。あわよくば、偉大な魔法使いと呼ばれたローズに少しでも近づきたいものだ。
れ「あの、お代は・・・?」
学「はっはっは。私は魔法屋ではない。まぁ代金を取ることもあるのだが、君は隣の村の者だろう?」
れ「そうです。サランの村に生まれ育ちました」
学「サランの人からは無用にカネを取らんよ。
それに君のことはどこかで見たことがあるような気もするしね。ははは」
れいは何度かこの村に来たことがある。そしてテンペの村の人もときにはサランに訪れることがある。実際に過去にすれ違ったこともあるのだろう。または、ローズやレオナの面影を、れいに見ているのかもしれないが。
学「・・・あぁ。これから遥かな旅に出ると言ったか?」
れ「はい。どこまで行けるかはわかりませんが」
学「大事なことを言う。覚えておきなさい」
れ「は、はい」ゴクリ。れいは緊張した。
学「旅の風景だけは、持ち帰ることが出来ないのだ。
その瞬間瞬間に、その瞳にしっかり焼き付けておくしかない」
れ「は、はい!」
ふぅ。とれいは1つ溜息をついた。
そして《ホイミ》の魔法を唱えた。自分の、頭にだ。
学者と10分話しただけで、ものすごく膨大な量の情報や考察が頭に入ってきた。それで脳が疲弊したのだ。
脳を使うことには慣れているはずのれいだが、冒険の中で得る知識や脳刺激はとんでもないのだな、と感嘆するのだった。
さて、次はどうするんだっけ。そうだ。王都へ向かうんだった。
覗いた道具屋が言うに、王都サントハイムはここからさらに南下し、平地へと高度を下げたところにあるとのことだった。
道「そんな小さな剣で、サントハイムまで旅するのかい?
それなら《薬草》をたっぷり買っていくべきだよ!」
れ「いいえ、私には《ホイミ》があるんです」れいは得意気に微笑んだ。
しかし道具屋の言うことは、実は正しかった。《薬草》をたっぷり買っていくべきだったのだ。
れいは、山から平地へ下れば冒険の難易度は下がるものだと想像していた。しかし実際は、サントハイムに近づくにつれてさらに手強い魔物が生息するのだった。うさぎとじゃれ合っているだけでは済まないのだ。すると《ホイミ》だけでは回復の手段が足りず、もっと《薬草》が欲しいと感じるのだった。
れ「どうしよう・・・」
れいは、どこともわからぬ道の真ん中で立ち往生することになってしまった。
無数の風がれいを追い越して、王都サントハイムへと流れていく。れいは30分も道端に腰を下ろし、すっかり多くの風たちに置いてけぼりにされてしまった。
するとそこに、王都へと鼻先を向ける荷馬車が通りかかるのだった。
れいは意を決して呼び止めた。
れ「すみませーん!」
男「うん?」男は声に気づき、馬車を停めてキョロキョロと周囲を見渡した。
男「おぉ、君かワシを呼んだのは」男は、れいの姿すら見えていなかったのだ。
男「こんなところでじっとしてたら危ないぞ」
れ「はい、そうなのです。体力がなくなって立ち往生になってしまいました。
あのう、王都まで馬車に乗せていってはもらえないでしょうか?」
男「あぁ、そういうことか。まぁいいよ。乗りなさい」
九死に一生を得る、とはこのことか。れいは安堵した。
男はテンペの村の行商であるらしかった。王都サントハイムと行ったり来たりして暮らしている。