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エピソード157 『天空の城』

エピソード157


ついに辿り着いた東の大陸サマンオサは、想像したほどのカルチャーショックも驚きも無かった。

この街はサンマリーノによく似ている。巨大な港町であり貿易都市であり、金持ちばかりが集まっていて忙しない。イライラしていて治安が悪い。

肌の色や顔の骨格が全然違う人々が暮らしていたりするのかな、と想像していたので、少し拍子抜けではあった。

西の大陸の人々に比べてやや肌色が浅黒く、顔の彫りが深い印象はあるが、アライゾなどにも見られる特徴で、西だから東だから、という要因は薄いのだろう。きっと東の大陸の中でも、様々な肌色や顔の造形の人たちがいるのだな、と思った。


少しサンマリーノと違う点は、冒険者の数がやや多い。

魔王がこちらにいて、その討伐を目指す冒険者が多いのだろうか?しかし戦士が単体で歩いているような姿が多かったりする。

食堂で出会った戦士に聞いた話によると、サマンオサの港では、用心棒を雇う船が多いとのことだ。この港からは、サンマリーノではなく東の大陸の他の町と行き来したり、幾つかの島々を周遊したりする船も出ている。船舶文化、船舶観光が西よりも盛んである。そしてこの辺りの海は海賊の出没が西よりも多い。だから戦闘に長けた者を用心棒として雇うのだそうだ。戦士たちにとってはなかなか実入りのいい仕事になるらしい。

れいはその戦闘を体験したが、戦士よりも遠隔攻撃が出来る魔法使いのほうが役に立つのでは、と感じた。船に乗り組んでくる前に相手の船を攻撃してしまえばいいのに。

戦「ははは、そんな育ちのいい冒険者はこっちには少ねぇよ」

れ「え?」どういうことだ?

戦「この辺りは金持ちが多いっちゃ多いが、成り上がりの金持ちばかりだ。冒険者はなおさらな。

 魔法使いってのは、金持ちの家柄のヤツが多いんだよ。魔法学校に通ったりしなきゃならんから、子供のうちから特殊な学校に放り込まれる。それを可能にするのは、金持ちの家庭さ。

 魔法使いは成金が多いから、ちっと嫌味なヤツが多いだろ。あ、ゴメン。オマエも魔法使いなんだったな」

れ「いえ」

戦「魔法使いはツンツンした高飛車なヤツが多いんだよ。自分で自覚してないようだけどな。学校じゃみんな同じ性格してるから、それが普通だと思ってんだろうな。高飛車なのが人として普通だと思ってんだよ。

 戦士に守ってもらって、自分は後方からボカンと魔法撃って、それで英雄きどりだ。ズルいもんだぜ。でもそれは学がいいヤツの特権だ、とか思ってんだよ。戦士を家来だと思ってやがる。

 戦士なんか逆に筋肉バカが多いからよ?魔法使いとはよく衝突するんだ。戦士からすれば魔法使いがインテリぶる、金持ちぶるのが鼻につくし、魔法使いからすれば戦士がバカでイライラするらしい」

なんと。そんな構図があったのか!

たしかに、サザンビークの城で大勢の魔法使いを見たが、ちょっとツンツンした人が多かった。お金持ちのお嬢様、という感じがした。また、イムルの町の魔法学校の子供たちも、生意気な感じの子が多かった。

そうかそうか。エンゴウの町の吟遊詩人も、「仲間選びは慎重にね」と言っていた。あの言葉は重かったのだろう。

戦士たちの性格が良いのか?と問えば、そうとも言い切れない気がする。しかし戦士のほうが素直ではある、と感じる。


れ「じゃぁ、『私は魔法使いです』って名乗ると、心証が良くないのでしょうか?」

戦「身構えるヤツもいるだろうな。特に戦士とか庶民はな。でも魔法使いを尊敬のまなざしで見るやつも多いだろ」

れ「じゃぁ、『戦士です』って名乗るのと『魔法使いです』って名乗るのと、どっちがいいんでしょうか?」

戦「そうだな。『魔法戦士です』って言っときゃいいんじゃねぇか!イイトコドリだぁ。はっはっは」

なるほど。魔法戦士という職業もあるのか。これからはそう名乗ろうかな。「魔法使いになりたい」と自己紹介しても、いつも「じゃぁなんで剣持ってるんだ」と突っ込まれて話が長くなるし・・・。


私も「鼻につくやつだ」とあちこちで思われていたんだろうか。それはちょっと悲しいな。謙虚に生きてきた、という自負はある。精神性は大事だと思っている。

そういえばどこかの教会の神父は、「あなたは魔法使いよりも僧侶に見える」と言っていたな。畑を耕す神父だった。フレノールか。

れいはそれなりに強くなったしそれなりにさすらってきたが、いつまで経っても人に対して謙虚であった。だって、私が知っていることなんて、万物のうちの1%にも満たないことがわかっているから。みんな、私の知らないことをたくさん教えてくれる。

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