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エピソード159 『天空の城』

エピソード159


水平線の彼方まで続く鮮やかな水色を眺めながら、れいは思った。


れ「なんだか懐かしいような気がするわ。

 私、遠い昔、こんな水色の海の村に生きていたような気がする・・・!」


それは本当に不思議な感覚だった。れいは、木々の緑を愛していると自覚している。緑ののどかな中にいるとき、自分の魂が安住の地に居るような安心感を覚えるのだ。だから故郷のサランも大好きである。それなのに、素朴な緑とかけ離れたこのファンタジックな水色にも、妙な懐かしさを覚えるのだった。興奮を覚えると同時に、懐かしさや安らぎを覚える。興奮と安らぎが同居するなんて、とても不思議な感覚だ。


これが、輪廻転生というものなのだろうか・・・?


人は何度も生まれ変わるという説があるが、私は昔、水色の海の民だったのだろうか?そのような気もする。



30分もぼーっとすると満足して、宿へと戻った。朝ご飯を食べなくては。

お腹が落ち着くと、再び海辺へと出る。村歩きというよりもついつい海辺へ出てしまう。何か出来事はないかな、という期待を持ちつつも、ただこの美しい海を眺めながら散歩したいと感じていた。

日差しが上ってくるにしたがって波の音が強くなり、海の色も微妙に変わっていく。日差しの量に比例して、水色も濃くなっているように思う。1つの海はこうして、夕焼け空のように無数の表情を見せるようだ。ひょっとして春夏秋冬でも微妙に色が違うのでは?違う季節の色合いもこの目に収めておきたい、そんな欲まで生じるのだった。


歩いているとやがて、海辺に人の姿を見つける。白いワンピースを着て白い帽子をかぶる女性が、佇んでいる。そばに寄ってみると、絵を描いていた。なんというか、この鮮やかな海をバックに白いワンピースをそよがせる彼女がもう、壮麗に芸術だ!その姿に見惚れてしまった。

れいは思わず声を掛ける。

れ「絵を描いているのですか?」

キャンバスも覗きこむ。やはりこの壮麗な海を描いている。上手い!

女「あら、こんにちは。女性の一人旅に出会うなんて久しぶりだわ」

れ「私もです。素晴らしい絵ですね!」

女「いえいえそんなことはないのよ。素晴らしいのは風景の方なの。私はそれに身をゆだねているだけ。もはや描いている感覚もないの。ただここに溶け込んでいるだけなのよね」

れ「えぇ!」なんだか深いことを言うものだ。

れ「ここの海、美しいですね!昨夜来て、今朝初めて見たのですが、ビックリしてしまいました」

女「美しいわね!私もこの海に魅せられて、もう2週間もこの村にいるの」

れ「2週間!もはや滞在者ですね」

女「そうね。もう滞在している感覚になっています。この海を描きたいから、それだけの理由で」

れ「え、つまり他所から来たということですよね。女性一人で?

 あ、私はれいといいます」

れいは、会話が弾むことを確信して名前を名乗り、そして座り込んだ。

マ「私はマローニ。私も遠いところから来たわ」

彼女も筆を置いて、浜辺に腰を下ろしはじめた。

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