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エピソード183 『天空の城』

エピソード183


ある日はユーリの元へ、城の前庭へと赴いた。

れ「ユーリさん。少しお話をしませんか?」

今日もユーリは、退屈な警備の代わりに庭の手入れをしているのだった。

ユ「えぇ喜んで。れいの旅のお話を聞かせてくれるのですか?」

れ「それもいいのですけれど、私、政治というものに少し、興味があるのです」

ユ「れいが!?政治家になりたいの?」

れ「いいえ、政治家になりたいとは思いません。なれるわけもないけれど。

 でも、どうやったら国や町が平和に幸せに暮らせるのか、それが知りたいなと思うのです。

 だって、あちこち世界を見てきたけれど、どこもあまり平和ではありませんでした。どこも、何か問題を抱えています。

 改めてわかったのは、私の生まれたサランの村はとても平和だったってことです」

ユ「良かったですね!自分の村が良い場所だと気づけたことは、幸せだと思います。

 そしてそういう村に生まれ育ったことも」

れ「そしてサラン以上に幸せそうに見えるのが、ガーデンブルグです。

 結局、こんなに平和で美しい国は、他にはありませんでした。似たようなものが幾つかはあるのかなと思っていたけれど」


ユ「この国は、それなりに思慮と苦労を重ねて今の平和にたどり着いています」

れ「マスタードラゴンがこの国にだけ交信をするのも、納得が出来ました」

ユ「そうですね。これほどの介入は特別なことであるようです」

れ「だから知りたいのです。ガーデンブルグはどうしてこんなに幸せなのでしょうか?」

ユ「私は建国からこの国に居たわけではないので、聞いた話ですが・・・

 ここに国を建てたとき、やはり幾つかの決まりを作ることに努力をしたそうです。

 まず1つ目は、商売です。

れ「そう。この国はパンがとても安くてビックリしました!」

ユ「私たちにとって、お金はほとんど意味を為しません。

 子供のお店遊びの引換券のようなものです。

 それ自体に価値はないですし、いつでも一定のお金がキープできるよう、求めれば城から支給されます」

れ「それじゃ、多くを欲しがる人が現れませんか?」

ユ「だから、お金そのものに価値を持たせません。

 貯金をいくらしても、何の意味もないのです。

 そしてこの国には、株とか投資とか、貿易という概念もありません。マネーゲームが存在しません。

 株や投資をしても、自国が亡びるだけです。貿易は、最低限、必要なものを見定めて行うだけです。

 するとみんな、お金なんていうのは今月のパンとイスが買えるだけあれば充分です。それ以上を欲しがりません」

れ「なるほど!

 ・・・でもそんなに簡単にはいかないような気がします。

 色々なパンが食べたくなったり、可愛い高級なイスが欲しくなりませんか?」


ユ「そう。だから2つ目のルールとして、『快楽はほどほどに』という心がけを、国全体で務めています。

 快楽を欲張ると、お金がたくさん欲しくなるし、労働も苦労も必要になりますし、貿易したくなります。それがほころびを生みますね」

れ「食堂にはジュースが2種類しかありませんでした」

ユ「そう。そういう妥協が必要です。

 それに、快楽を欲張ると、自然を破壊しすぎるものです。それは一番やってはいけないこと」

れ「そうなのだと思います。炭鉱は掘り過ぎてはいけないのだと思います」

ユ「ガーデンブルグの民は、オシャレが好きです。しかし宝石は欲しがらないようにしています。

 カラフルな飾りが欲しいなら、それは花が提供してくれますね。

 そして洋服も、多くを求めないようにしています。何着までなどと規則はありませんが、ワンピースは2つか3つもあれば充分です。親がそう振る舞い、友がそうしていれば、自分もそう多くを欲する必要もありませんね。規則というより、そういう感性を確立したのです。国民全体の。女王すら多くの服を持ちません。女王はよく服を作りますがね。フフ。

 もう国のポリシーとして、『多くを求めるのはやめようよ』としています。

 服をたくさん得ようと思うと、やはり機織りが大変になり、お金がたくさんかかり、資源が枯れてしまいます。

 私たちはまず、環境資源を守れる範囲でのみオシャレや快楽を楽しもう、と考えます。それがサステナブルに暮らすための唯一の方法論です。新しい繊維を開発するのではなく、快楽を自制します」

れ「人は、自分の欲に押しつぶるされるのだなと感じます」

ユ「そうですね。この国ではお酒を一切飲みません。お酒はトラブルの種でしかありませんね。

 それが美味しくてたまらない、気持ちよくてたまらないという人が一部いるのは知っています。でもリスキーなものは採用しません。高いお金をとればいいというものではない。そうしたって、お酒を買うお金を得るために悪さをしだすだけです」

れ「私も、お酒が怖いです。お酒を好む人が怖いです」


ユ「オシャレと食べ物と、それらの快楽をほどほどにしようと決めると、それで後のことは大体上手くまわります」

れ「えぇ?」

ユ「とにかく、民が多くを欲しないなら、民はあまり多くの労働をする必要性がありません。機織りの仕事はそう多くならずに済みます。農家の労働はそう多くならずに済みます。

 するとこの国の民は、義務的な労働としては1日4時間程度のものです。

 それ以外はたくさん遊んで、休んで、おしゃべりして、昼寝もしていられます。

 するとストレスが溜まりませんし、病気にもあまりかかりません。

 暇がたくさんありますが、オモチャは多くありません。すると民は自発的に、4時間よりも多くの工作などをしますが、好きでやっているので不満もストレスもありません。その中で色々なスキルを覚えていきます。戦闘さえも。

 暇がたくさんあるので、花やツタなど使ってよく芸術を創ります。そして芸術好きな民が多くなります。ダンスも踊ります。

 美術品とはガーデンブルグにおいて、高いお金で買うものではありません。それは自分で創るものです。身近な人に贈りあったりはしますがね」

れ「ラナとルナの家も手作り品で溢れていました!」

ユ「私たちは、美しい町と美しい美術に囲まれているので幸せです。でもそれは、もっぱら手作りするのです。お金で買おうとしないから、ほころびが生じないし、サステナブルなのです。

 私たちは、美しい自然と美しい心に囲まれているので幸せです。でもそれは、自分たちで日々、作りあげている自覚があります。

 心の美しい友達に囲まれていたいなら、自分の心が美しくなければなりません」

れ「この国の人は、誰もが優しくてほがらかなのです!」

ユ「そういう人が好きなので、自分もそうするようにしています。

 私たちはこの美しい国を、民のポリシーによって創り上げ、日々再創造しています。1日でも、それを辞めては継続できません」

れ「法律や罰則の問題ではないのですね・・・!!」

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