エピソード19
れいと一緒に、夜の闇も街に入ってきた。
サランに居た頃は、20時にはもう眠りに就く生活だったが、サントハイムには外灯がある。夜が来てもまだ外は明るいし、街はまだ眠りそうもないのだった。
夕飯を済ますと、れいはまた街を歩いた。「女の一人歩きは気を付けろよ」とあちこちで言われたが、ナンパなどしてくる男はいなかった。きっとバーなど入ると危険なのだろう。街には時々、妙な叫び声が聞こえるが、もっぱら酔っ払いによるものだ。酒を呑む者たちは、色々な意味で危険なように感じた。
街の広場の噴水の前に、一人の男がいる。大きな声を出しているから酔っ払いかと思ったが、どうやら違う。洒落た服を着て、フルートを片手に歌を歌っているのだ。吟遊詩人というものだ。
吟「人はなぜ~ 何度もぉ~ 生まれ変わるのかぁ~
死んだ後ぉ~ 神様に~ ご褒美をもらう~
『なんでも1つだけ 願いを叶えてやろう』
『何にも知らなかった 無邪気な頃にぃ~ 戻してください~』
そしてまた~ 冒険にぃ~憧れ 地球に飛び出すぅぅ~♪」
れいは吟遊詩人というものを生まれて初めて見た。なんだか面白いことを歌っているなと感心したのだが、どうリアクションしてよいのかわからなかった。ただただ真顔で見ていた。
しかし吟遊詩人は、れいが自分を多少なりとも気に入ってくれたと理解した。本当に無関心ならすぐに過ぎ去るものだ。無表情でもずっと見ているということは、内心では何かを感じてくれている。
吟「お嬢さん。夜の一人歩きはお気をつけなさい」しかし吟遊詩人は、「どうだ!」「とかもう1曲聞いてくれ」ではなく、ささやかに少女を気遣う言葉だけを投げた。
れいは、何か言葉を返さなければいけないと思った。しかし何を言えばいいか思いつかない。
れ「もっと観客のいるところで歌えばよいのではないですか?」言ってから、「なんだか違う!」と思ったがもう遅い。
吟「吟遊詩人ってのはね、ステージに千の観衆を集めるために歌うんじゃないんだよ。
観衆を集めたがるのはアイドルさ。吟遊詩人は違う。
吟遊詩人は、道ですれ違った人が『はっ!』とする、そのために歌うんだ。そのためにさすらうんだ。
目立ちたがり屋には出来ない仕事さ」
れ「へぇ・・・」
独特の感性を持った人だな、とれいは思った。こういう人に会ったことがない。
れいは、なけなしの10ゴールドを、吟遊詩人の足元の帽子の中に投げ入れて、恥ずかしそうに走り去った。
宿に戻って、眠りに就くことにした。今日は色々な職業の人に会ったなぁ。そんなことを思い返しながら。