エピソード20
翌朝。
ついにお城へ謁見に行ってみることにした。許可証・・・通行手形を貰えば外国にも行けるようになるのだ。
王都サントハイムは大きな街の中に城がある。城はおおむね開かれているようで、ところどころに番兵は居れども大した咎めもなく城に入っていける。商人が入って行ったり、貴族めいた麗しい女性が入って行ったり、色々あるようだ。
城は賑やかながらも平和そうだな、と感じたが、歩きながらに城の者たちの会話に耳をそばだてていると、どうも「大臣が最近おかしい」といった噂を耳にする。商人や貴族女性ではなく、城を守る兵士たちがそんな噂をしている。
「まぁ私には関係のないことだわ」とれいはあまり気にも留めなかった。
お城の中枢に入れば入るほどドキドキする。私なんかが居てもよいのか?しかし、特段誰もれいを不審者扱いしない。商人や貴族、その同行者たちが行き交っていることで、れいは特に浮かないのだった。ある意味では彼ら彼女らに感謝である。
王の間は3階にあった。
そこまで上がると、王の間を守る兵士に止められる。
「王は今、商談の途中ゆえ、みだりに立ち入らぬよう!」
れ「は、はい!」
廊下の椅子で待機する。椅子すら無駄に豪華だ。
先客が出てきた様子はないのに、「入れ」と促された。
れいはそれに従い、静かに王の間へと入る。先客はまだ王や大臣と何か話し込んでいる。
「申し訳ないが同時進行で謁見をしてくれ」と兵士が言った。まぁよくわからない貧乏そうな冒険者のために、多忙な王が1時間も割く義理もない。れいは謙虚な人間だし、特に不満を抱くでもなく言われた通りにした。
会話が途切れる数秒のタイミングを伺う。
れ「あ、あのう王様。私はサランの村の者ですが、サントハイム領より遠くへ冒険に出る許可をください」
歩きながらずっと考えてきた端的な許可依頼のセリフを、ドキドキしながら王に伝えた。
王「おぉわかった。頑張って行ってまいれ」王様は2秒だけれいの目を見て、笑顔を差し出した。
王「この者に許可証を」王が部下に命じると、執事が何やら動き始めた。
王はそれでもう、険しい顔に戻り先客との話に夢中になる。
れいは王にお辞儀をすると少し下がり、行儀よく通行手形の発行を待った。そしてその間、先客と王、大臣たちの話にそれとなく耳を傾けていた。
大臣が一番熱くなっている。
大「いいやダンスパーティーの数を2倍に増やすべきです!麗しい女性が多く出入りすれば貴族の来城も増える。それで勝手に貿易が発展しますぞ!」
王「しかし、ダンスパーティーは税金で行われるもの・・・」
客「楽隊の雇用料など、貿易が盛んになればすぐに相殺できますぞ」
大「そうですとも王!国が豊かになるための経費なら国民も文句は言いますまい!」
王「うーむ・・・。ダンスパーティーを否定はせぬが・・・。
週末のごとにパーティーばかりというのは国の品性としてどうなのだろうか・・・。
客「先進国ではもはや毎週のパーティーなど当然のことですぞ!」
王「うーむ。
おい、そなたら、どう思う?」王は、近くの兵士たちに意見を求めた。
兵「私どもは、パーティーというのはあまり・・・」
兵「民の意見を代弁するとすれば、税金の遣い道として良い印象は抱かないような・・・」
大「いいや、むしろ国民もダンスパーティーに巻き込みましょう。
民は皆、ダンスパーティーの素養を磨くべきです!さすれば貴族の振る舞いが出来る。
先日お亡くなりになられた古の英雄ローズ卿も、娘にはダンスの教養を磨かせたと聞きますぞ!冒険者では仕事も出来ない。手に職が要ります」
「うん?」れいは驚いた!
ローズの娘と言ったら私の母のことだぞ!?お婆ちゃんの若い頃のことはよく知らない。が、母親がパーティーでダンスに明け暮れていたなんて聞いたことがない!王都へは教師の資格を取る際くらいしか赴いていないはずだ。
口を挟みたいが、口を挟んで聞いて貰える身分とは思えない。「ローズの孫ですが」と言ったって信じてはもらえないだろう。
「まぁいいか」れいは思った。私はこの国を出ていくのだし。旅から帰ってきても村に戻るだけだし。サントハイムにダンスパーティーが増えようが、れいには関係のないことだ。
れいは下品な話を聞きたくないので、先ほどの待ち合いの椅子に戻ってそこで待機した。そして手形が発行されると、さっさと城を出た。
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