エピソード23
宿屋の店主が話しかけてきた。
宿「里を抜けるのか?
北西寄りに進むと人間の原住民族の集落がある。
もとは人にも妖精にも中立な、まぁ付き合いやすい奴らだったが、酋長が代変わりしてから良からぬ噂を聞くよ。
休息や物資補給に立ち寄るのはいいと思うが、ちょっと警戒しておきな」
ア「ありがとう。優しいんだね」
宿「旅人とは持ちつ持たれつの商売だからね」
宿屋の主人は、うつむいて手だけをこちらに振った。
一行はノビスの里を出た。
足場の悪い森を歩くのも、魔物と戦うのも慣れてきて、日に日に心は落ち着きを取り戻している。
しかし緊張感の欠落に眠くなったりはしない。どうせまた新たな試練や敵があることは、誰に聞かずとも明白なのだ。旅とはそういうものだと、誰に聞かずとも気づいていたのだった。
ゆ「ねぇアミン?あなたは魔法の、えっと、イニシエーションというやつは出来ないの?
私、《ヒャド》の魔法も早急に会得しておいたほうがいいんじゃないの?」
ア「おあいにくさま。僕はまだ、人に魔法を伝授できるほどの手練れじゃないよ。
どうやったら伝授も出来るようになるんだろう?そういえば、知らないや」
ゆ「そう」
ア「とにかく、《メラ》を使うことは火事の恐れがあることを、肝に銘じておいてくれよ。
《メラ》にかぎらず、焚き火にもね」
ゆ「なな、わかった?」
な「はぁーい」
ア「人間の原住民族の酋長なんて、ひょっとしたら簡易魔法の伝授くらいは出来るかもね」
ハ「酋長って、インディアンみたいのがいるのかな。なんか面白そうだぞ!」
―ホぺの里―
一晩の野宿を経て、1日半歩いた後・・・
噂に聞いた原住民族の集落とやらを、見つけたようだ。
森を切り拓いて整えられた広場に、テントの家が立ち並んでいる。文明としては、ドワーフたちのそれよりも原始的なように見える。
一行はその敷地内に足を踏み入れた。
村「ハーオ!旅人か?」
ゆ「はぁい。いちおう、旅人だと思うわ」
村「そうか。酋長を呼んでこよう」
な「どこの村でも旅人は村長さんに面会するの?」
ア「まぁそういう傾向はあると思う」
まもなく酋長らしき男が現れた。男だが髪を長く伸ばし、三つ編みのように結わいている。頭には洒落た羽根飾りが揺れている。脇には助手らしき男を従えていた。
酋「ハーオ!よく来たな。
ここはホぺの里。
旅人だと?歓迎しよう。一杯やろうではないか」
ゆ「ど、どうも」
ハ「排他的ではなさそうだな?」
な「ご飯くれるって言ったんじゃない?」
酋「私の屋敷に宴を用意する。さぁさぁ、来たまえ」
酋長はサバサバと挨拶を終え、自らの大きなテントに一行を招いた。
集落の真ん中あたりに、ひときわ大きなテントがあるのだった。
テントの中は極めて簡素だ。手織りの御座が敷かれ、囲炉裏のような炭の砂場があり、日用品がこまごまと並んでいる。
囲炉裏の周りには、フルーツやチーズ、何かの燻製肉などがすでに並べられている。
一行は促されるままに、ごちそうの前に腰を下ろした。
酋「さぁさぁ、旅人だって?土産話を聞かせてくれたまえ。
一杯やろう。楽しくやろう」
陽気な笑顔でそう言うと、彼はとっくりのようなものを掲げた。
すると、脇にいた助手が慌てた顔で言った。
助「酋長!この者たちはまだ子供に見えますが?
お酒をたしなむ年齢ではないようですぞ!」
酋「まぁまぁいいではないか!乾杯の酒は幸福の国のカギだ」
な「え!わたし、15歳なんですけど・・・」
酋「問題なかろう。我らの集落では14歳から酒を飲む」
な「わたし、お酒って飲めるの??」
酋「なぁに、甘いブドウジュースだよ。ほら、一口飲んでみぃ」
酋長はななにワインを一口手渡した。
な「うん?おいしーい!」
酋「そうだろうそうだろう。ホぺのぶどうジュースは世界一美味いのだ!」
ハ「お!これ美味ーえ!
甘いものなんて久しぶりに飲んだぜ!」
ア「お酒かぁ。僕はちょっと遠慮しておこうかなぁ」
酋「なに?わしの注いだ酒が飲めんというのか!」
ア「いや、そういうわけじゃないけど(汗)」
酋「そうだろうそうだろう。宴の雰囲気を壊してはならん!」
一行は宴の歓待を受け入れるのだった。
翌朝・・・
ゆ「お金がないわ!お金・・・に換金する予定の80粒の宝石がぜんぶなくなってる!」
な・ハ・ア「えぇー!!??」
ハ「おい!どうすんだよオレらの全財産だぞ!」
な「うぇーん」
ゆ「そんなこと言ったって・・・」
ア「もしや・・・」
ゆ「盗難・・・を疑ってる?」
ア「あぁ」
ゆ「それも頭をよぎったけど、こんな単純明快な状況で犯罪を犯す人っている!?」
ア「そうだけど、でも、ヤツしか考えられないだろう・・・」
な「もしカンチガイだったらすっごい気まずいよ(汗)」
ア「僕が、話してみる」