エピソード31
翌朝、一行は4時に飛び起きた。
そして眠い目をこすりながら、西の砂漠の向こうを目指して出発した。
町の近郊はたしかに、魔物の陰はなく平和だった。人の住む場所には魔物は出ない。それはエンドールと共通しているようだった。平原にも魔物の姿ははない。もしくは、彼らは出会わなかった。
ハ「なんだ、シラけるなぁ!」とハヤトは手持ち無沙汰に《はやぶさの剣(偽)》を振り回した。魔物がいればいるで文句を言い、いなければいないで文句を言うのだった。
しかし、いつまでも平和ではないのだった。
平原を抜け砂漠に至ると、魔物は姿を見せ始める。当然ながら崑崙(こんろん)の森では見なかった魔物だ。

三又フォークを持った小さな悪魔が、フワフワと空中を浮いている。ベビーゴイルだ。戦闘力が高いわけでもないが、浮いているので攻撃しにくい。奴のフォークでの攻撃もしょっちゅう空振りするが、こいつがもう少し成長したら一行は勝てないかもしれない・・・。

かえんムカデは、炎のように赤い体をした虫の魔物だ。火の息を吐き、こちら全体に《メラ》を喰らわせるような厄介な攻撃をしてくる!集団で現れるともう、逃げるしかない。
崑崙の森から、一行は大して戦力アップをしていない。しかし魔物は強くなっている。武器を買うにはお金がかかりすぎる・・・。何か画期的な戦力アップが必要だなと、一行は感じていた。
日差しが熱を持ち始めた頃、眼前には泉が見え始めた。
その周りは、異様と思えるほど色鮮やかに花が咲いている。妖精の里だろう。その秘密を知る者には容易に察せられる。
キラキラと光る水面をバックに、体を大きくしたリラが、笑顔で一行を出迎えていた。
リ「なんとか間に合いましたね!良かった。
ようこそおいでくださいました。ここが私たちのエルフの里です」
な「リラがおっきくなったぁ!」ななはリラに抱き着く。
リ「うふふ。そうです。
わたしたちは用途によってサイズを変えます。今は飛ぶ必要はなさそうなので」
リラはさわやかな泉を周りながら、4人を里の長ポワンのもとへと案内した。
高齢の、でも上品で麗しい女性が、青空の下の玉座で一行を出迎えるのだった。
ポ「まぁ、本当にかわいい戦士様!
ようこそおいでくださいました。私はここの長、ポワンと申します。
見てのとおり、もう高齢。色々なことを皆に助けてもらわなくてはなりません。
ここも以前はもう少しにぎわっていましたが、泉が干上がり小さくなるにつれ、住むエルフも減っていきました」
な「こんにちは。エルフの王女さま。フルートが得意なのですか?」
ポ「いえ、私は女王ではありません。女王は城にいます。
私はあくまで、この里の長」
な「えぇー、どう違うの?(汗)」
ポ「私は村長。女王は城の長です。
ところで、そのフルートの件、お手伝いいただけるというのは本当でしょうか?」
ゆ「はい!手伝います!手伝わせてください!」ゆなは必死の表情で言った。
ポ「どうもありがとうございます。
お礼はもちろんいたします。
妖精の職人たちが作る、世にも珍しい武器を差し上げましょう」
ハ「お、待ってました!」
ポ「え?そちらの殿方には、向いているかどうか・・・」
ハ「は!?どういうことだ?」
ポ「お選びはいただけますが・・・
《りりょくのつえ》 魔力を力に変え、魔法使いでも打撃戦を得意と出来る杖です。
《まふうじの杖》 相手の魔法を封じる《マホトーン》の効果を放てる杖です。
《めがみのムチ》 女性の戦士に向いた、うるわしい打撃戦の武器です。
《銀のタロット》 引いたカードによって様々な効果をもたらす、魔法のタロットです」
ハ「杖が2本にムチにタロット・・・!?
ふざけんなよ!まともな武器がねぇじゃんかよ!!」ハヤトは泣きそうな顔をしている。
ポ「まともな武器では、あるのですが・・・」
ハ「そうじゃねぇだろ!もっとこう・・・」
ポ「どれもこれも、人間の世界で数千ゴールドの価値はあるはずのものですが。場合によっては万単位にも・・・」
ハ「あーちくしょう、だまされた!
《はじゃのつるぎ》が貰えるんじゃなかったのかよ!」
ア「誰もそうは言ってなかったぞ・・・」
ハ「帰るぞ!寄り道する意味がねぇ!」
ゆ「ハヤト!」
ハ「オレは武器が貰えるっていうから着いてきたんだ!」
ア「おまえはそうかもしれないけど・・・!」
ポ「どうしましょう。お気に召されませんか?
お助けいただくことは、できませんか」
ゆ「行こうよ、ハヤト!人助けだって冒険のうちじゃない?」
ハ「よーし!おまえはオレに貸し1つだ!
手伝ってやるが、後でおまえがオレに武器を買え!3000ゴールドの《はじゃのつるぎ》で許してやる!」
ゆ「・・・・・・!」
この世界で3000ゴールドを稼ぐことがどれほど大変か、ゆなは痛感していた。
ゴクリ。ゆなは息を飲んだ。
ゆ「いいわ。私が責任を持つ!」
な「ゆなぁ!」
ア「ゆな!これは横暴だぜ!なんでゆなが責任とらなきゃいけないんだよ!」
な「なんかワケがわかんないよぉ(汗)」
ゆ「いいよ。私がすべて背負うから」ゆなは震えながら言った。
ポ「お礼の品は、どれになさいましょう?」
しかしこの状況で、ハヤトの使えない武器を指名するのも気まずすぎる、とゆなは察した。
ゆ「えぇと、お礼はことが済んでからゆっくり、選ばせてもらっていい?」
ポ「そうですか。お好きになさってください」
そしてポワンは、ゆなの意思を察した。
ポ「ごめんなさい。わたくし、たったこれだけの会話なのにもう疲れてしまって・・・
他の者に説明を代わっていただいてもよろしい?」
ポワンは力なくそう言うと、そっと目をぬぐうのだった。
疲れた、というのも事実。そしてゆなの志に目頭を熱くしたのだった。
エ「では私が説明を代わります。エルサと申します」お付きの妖精が場を立て直した。
エ「森が燃えてしまったのです。
《春風のフルート》を奏でれば、木々の再生を爆発的に速めることが出来るのですが、この里のフルートは紛失してしまいました。
ですから、湖の妖精の城に、新しいものを貰いに行っていただきたいのです」
ゆ「はい。あまり難しくはなさそう?」
エ「しかし、この里の者でも女王様への謁見は限られているのです。
この里と同じ様に、妖精の城も姿をくらませています。無暗な侵入を受けぬように。
彼の地は、美しい湖のある地としては人間たちにも周知されています。しかしわざわざお花を見るために出かける人間はほとんどおらず、城の存在もおびやかされてはいません」
な「えーっと・・・?」
エ「ここからずっと西に行くと湖があり、そこに妖精の城があります」
な「どうやったら、入れるの?」
エ「カギとなるのは、『調和』です」
ゆ「何かそういうカギと、カギ穴があるっていうこと?」
エ「いいえ、キーポイントという意味でのカギです。それが『調和』です」
ア「アイテムじゃない、物質じゃないってことか!ひどく曖昧な・・・」
エ「そうです。女王様のお城は、エルフとて誰でも入れる場所ではありません」
ハ「それを人間の冒険者に頼むのか?」
するとリラが口を挟んだ。
リ「ですから、オーラの優れた者を探したのです!」
ハ「オーラとか調和とか、よくわかんねぇな。こんなロープレ見たことねぇぜ!」
ゆ「どう対策したらいいのかしら?」
な「とにかく、行ってみたら?」
ア「それが正解な気がする。僕らは、力もアイテムも何もかも足りなすぎる。
何が必要か、わかってからそれを探したほうが早いよ(笑)」
ポ「ケホっケホっ!」
ポワンが口を挟んだ。
ポ「まっすぐ、進むのです。まっすぐ」ポワンは、ゆっくり意味深に、奇妙なことを言った。
ゆ「わ・・・かりました」とりあえずそう返事するしかなかった。
ポ「今日はまだ早いですが、食事をしていってください」
な「わぁい、ありがとうございます」
ポ「そしてゆなさん。後で私のところにいらしてくださいまし」
ゆ「なんでしょう?」
ポ「少々アドバイスを、ね」
謁見は終了した。
リラとエルサは他の仲間とともに、4人を朝食でもてなした。