エピソード33
《ホイミ》と《ヒャド》を会得した一行は、少し得意気な顔で、砂漠をさらに進んでいった。
いいや得意気になれるだけではない。ゆなが《ヒャド》を覚えたことで、かえんムカデもベビーゴイルも格段に倒しやすくなった!
ゆなは《ヒャド》で氷が生み出せることを、砂漠における暑さしのぎにも巧みに活用した。
アミンは以前から《ヒャド》を使えたが、人間たちより暑さに強いようで、少々灼熱の日差しを浴びたところで魔法に頼ろうという発想にもならないのだった。
砂漠はやがて落ち着き、若草色の平原となる。
さらに進むと、大きな庭園を囲うアールヌーボー調の鉄柵が見えてきた。
リ「見えてきました!妖精の城です!」
な「自然公園みたいだよ?」
ハ「城なんて見えねぇぞ!」
ア「普段はカムフラージュしているって言ってたな」
なんと庭園の入口には、2人の女兵士が立ちふさがっている。
ハ「え!大丈夫なのか!?」
リ「大丈夫。彼女たちもエルフです。兵士の姿で暮らす、力自慢のエルフです」
リラは向き直ると、今度は兵士たちに説明を始めた。
リ「ポワン様の遣いの者です」
兵「何用だ?」
リ「里の《春風のフルート》が盗まれてしまったのです。
先日、南の森が大きな山火事に遭い、それを直したいと願いやってきたのですが・・・」
兵「女王様に謁見なさい」
リ「はい。そのつもりなので門を通していただきたいのですが」
兵「ふむ。ポワン様の遣いと言えども審査は免れぬ。
皆々そこに立ちなさい。じっとしているように」
そう言うと、2人の兵士はまじまじと4人を眺めた。
どうもこの世界の人たちは、人の体ではない何かを凝視したりするようだ。
兵「ふむ。
長髪の女、そなたは通ってよろしい。
ショートカットの女。そなたも通ってよろしい。
ドワーフの少年。そなたも通ってよろしい。
人間の少年・・・
ふむ、ご足労のところ申し訳ないが、そなたは通すわけにはいかない」
ハ「えぇ!なんでだよ!?」
兵「ここは妖精の女王の城。
心の清い者でないと門をくぐらせるわけにはいかない。その厳しい決まりを守って千年平和に暮らしてきた」
ハ「オレは心清いぞ!」
兵「そのような評価は難しい」
ゆ「何を基準に決めているの?」
兵「オーラを視ている。グリーンとブルー、これらのオーラが一定以上ないと、通すわけにいかない」
ハ「意味わかんねぇ!
ここまで来て帰れってのか!?」
な「ハヤトは、わたしたちのこと助けてくれました!」
兵「1度2度助けただけでは誠実な人とは言えない。それ以上に不誠実な行動が多かったようだ。
悔い改めというのは、1度2度の善行で帳消しにできるものではない。
あなたたちも、1度や2度親切にしてくれたからといって、だらしない人を善人と思い込まないように気を付けてください」
ゆ「彼は、とても頭の良い人です!そういう長所もあります!」
兵「頭が良いのではなく、ずる賢いだけであるようだ。それは長所というより、危険因子である。
禍々しい濁ったオーラも視えている」
ハ「なんなんだよさっきから!
禍々しいのはオレなのか?他のヤツかもしれねぇじゃんかよ!」
兵「では閻魔大王からの内心表を、少々読み上げてみます」
ハ「なに!?」
兵「『学校にも行かず貢献もせずテレビゲームばかりしている』これはどなたでしょう?」
ハ「お、オレだ・・・」
兵「『エナジードリンクばかり飲んで努力をしようとしない』これはどなたでしょう?」
ハ「お、オレだ・・・(汗)」
兵「『妹に巧妙にセクハラばかりしている』これはどなたでしょう?」
ハ「お、オレだ・・・」
兵「『仲間がサルに襲われても逃げ出した』これはどなたでしょう?」
ハ「お、オレだ・・・(恥)」
兵「『山火事の原因は自分なのにそれを言おうとしない』これはどなたでしょう?」
ハ「お、オレだ!」
兵「まだあるが、読み続けようか?」
ハ「うるせえ!もうやめろ!」
兵「善者として胸を張って妖精の城に飛び入りたいなら、まだかなりの改心や善行が必要だ。少なくとも数年はかかるだろう」
4人「・・・・・・!!!」
な「どう・・・しよう?」
兵「皆でトルッカに帰るか?」
ゆ「そういうわけには、いかない・・・!」
兵「だとすれば・・・。
この少年とは、ここで別れるしかあるまい」
4人「えぇ!!??」
兵「驚くことでもなかろう。理屈は明白だ。
志の異なるものは、ずっと一緒には居られない。
そしてこの城にはなおさら、不誠実な者と一緒には入れない」
ア「僕はまぁ、言わんとしてることはわかるけど・・・」
な「アミン!」
兵「とにかく、4人で帰るか、少年だけ帰すか、だ」
ア「僕の答えは、もう固まったよ」
な・ゆ「・・・・・・」
ななもゆなも、どうすればよいかわからない・・・。