エピソード35
2階に上がるとまた迷路が待ち構えており、魔物が襲い掛かってくる。そしてやはりこの塔の魔物は、いつも4匹や6匹、ときには8匹も群れをなしてくるのだった。
そう。「魔物が群れて襲ってくる」ということが、この試練の最大のポイントだ。
ローズが言うように、メラやヒャドという初歩魔法は敵1匹にしかダメージが及ばない。しかし、ギラやバギ、イオといった他属性の下級魔法や、ヒャダルコ、バギマといった中級魔法の多くは、複数の敵を一挙に攻撃できるのだ。
メラやヒャドしか使えないようでは、この塔は踏破できない仕組みになっているのだった。
れいは、ローズから授かった《マグマの杖》のイオの効果により、魔法使いとして非常に未熟ながらも群れの魔物を殲滅することが出来た。
そして塔にはあちこちに宝箱が落ちていた。
中を開けてみると、ゴールドや初歩的な武器、防具、アイテムが獲得できるのだった。れいにはよくわからないものもある。
最上階らしき場所に辿り着く。天井がなく、空が見えるのだ。
最上階はこれまでとは打って変わって、とてもシンプルな構造をしていた。
花道の先に3つの宝箱が堂々と並んでいる。これは3つとも貰ってよいのだろうか?
しかし・・・収穫を得たとして、その後どうやって戻ればよいのだ?ここからまた入口まで戻るのは、もう体力や魔力が持たない。何か頭を使わなければならないような気がする。
れいはまず、左の宝箱を開ける。
そこには、犬の形を模した大きなスリッパのような靴が入っていた。靴の上からも履けそうな、大きなスリッパだ。
なんだこれは?すごい防具なのか?売るとお金になる調度品なのか?そうとも思えないが・・・
それを手に取る前に、れいは真ん中の宝箱を開けてみた。今度は猫の形を模した靴が入っている。
れいはそれも手に取らない。右の宝箱も開けてみる。すると、ウサギの形を模した靴が入っている。
なんだこれは・・・?
3つのひょうきんなアイテムを貰って、喜んで帰路に就けばよいのか?
手に取った途端、これが魔物に化けるのか?それもあり得る。
もし3つがそれぞれ魔物に化けるとして、最も倒しやすいのは犬、猫、ウサギのどれだ?それならなるべく弱いものを選びたいが、よくわからない。
トントン。猫の靴を指先でそっと突ついてみるが、特に魔物に化けたりはしない。
うーん・・・
・・・なるほど!
れいはひらめいた。
犬と猫の宝箱のフタを閉じた。そして、右側のウサギの靴を手に取った。
なぜウサギを選んだか?
れいは、塔の入口の立札のことを思い出したのだ。
「月まで跳べるのはウサギのみだ」みたいなことが書いてあったぞ。
これが謎解きであるとして、答えはウサギの宝箱だ。そして「のみだ」といった記述があるならば、他の2つを選んではいけないのだ。これは報酬アイテムではない。何かの試練であり、不適切なものを選んだり3つとも手にとったりしてはダメなのだ。
ウサギの靴には何の説明書きもないが、その様子を見るにつけ、靴の上から履ける。
れいはおそるおそる、ウサギの靴に靴ごと足を通した。
すると!
ビュビュ―――ン!!
なんと、れいの体がロケットのように飛び上がった!
空いた塔の天井から外へと飛び出し、月ではないせよれいの体を遠くまで運んでいく!
れ「うわぁぁぁーーー!!」
そしてれいは数秒の後、イムルの村のはずれの草むらの中に、すとんと着陸するのだった。