エピソード47
城の裏手側に、小屋はあった。
ゆなはノックを試みる。トントン。
ゆ「ベロニカさんのお宅ですか?酒場の依頼書を見て来ました」
数秒の後、扉が開いた。
ベ「おぉ・・・!」
ベロニカは扉の向こうに立つ4人をぐるりと眺め、何と言っていいかわからずリアクションに困った。頼もしそうなパーティにも見えないが、誰かが来てくれたことは嬉しい。
優しそうな男ではあるようだった。年齢は30歳くらいだろうか。
ベ「ま、まぁ入ってくれ」
ベロニカは焦るように4人を中に入れた。立ち話できる内容でもないのだろう。
ベ「君たちは、この城下町の者じゃないな?」
ゆ「えぇ、冒険者です。南の国から来ました」
ベ「そうか、良かった。
・・・うーん。しかし、まだ旅の初心者ではないのか?」
な「えぇ、弱さには自信がありますぅ(汗)」
ななは胸をバンと叩いた。
キ「とにかくご依頼、聞かせてくださらない?」ベロニカは戸惑っているが、キキが先を促す。
ベ「来てくれてありがとう。
僕は画家のベロニカ。
この城のお付きの画家をやっている」
ゆ「もしかして!数々の名画はあなたの作品!?」
ベ「そうだ。もう見てくれたのか」
な「めっちゃキレイでしたぁ!」
ア「そうして立派な絵を描くことで、その立派な服装や小屋を与えられているんでしょ?恵まれた身分に見えるけど・・・」
ベ「絵を描くことで食べていきたい。それは子供の頃からの夢だった」
ゆ「叶って良かったですね♪」
ベ「そうだが・・・うーん。納得していないのだよ、自分の作品に」
な「女王様の顔、あんなにキレイに描けるのに!?」
ベ「ははは。まさにそれが、僕の苦悩の種だ(汗)」
4人「えぇ!?」
ベ「僕は、この世の事象を、ありのままに描きたい。
ありのままに、描きたい」
キ「ぷぷぷ・・・!」キキは噴き出し笑いをしている。
残りの3人は、その言葉では要領を得ないでいる。
ベロニカは察して、周囲をキョロキョロと警戒してからいきさつを話し始めた。
ベ「ある時、城から女王様の肖像画を描いてくれと依頼が入った。
それによって僕は、この城の中に大きなアトリエと、そして寝食を手に入れた。
最初僕は、女王様を『ありのまま』に描いた。
しかし、視察に来た家臣はその絵を見て、僕を怒鳴りつけたんだ。
『こんな絵を献上したのでは首が飛ぶぞ!』と。
『女王の姿を、美しく描きなさい』とね」
ゆ「あ・・・なるほど」
ベ「はぁ・・・。
僕は、『ありのまま』を描きたい自分の美学と、恐ろしく葛藤した。
しかし、この恵まれた家と食事を手放したくなかったゆえ、自分の美学を捻じ曲げてしまったんだ。
城の望みどおりの絵を早急に描きあげて献上し、事なきを得た。
僕は、名のある裕福な画家として暮らすことができるようになったが、昼夜苦悩することになった。
昼間は良心の呵責にさいなまれ、夜は悪夢を見る。
しかし僕には、女王様に服従する以外に選択肢がなかった・・・」
ア「それこそ、城を出てしまえば良かったんじゃないの?」
ベ「そんな力は、僕にはないよ。
僕は軟弱な芸術家だ。冒険をして隣の国に行くほどの強さがない」
ゆ「軟弱だって言ったって、少しは戦えるんじゃ?
この城の周りは、トルッカよりは強い魔物が出るようだけど。周辺の魔物と戦えるくらいの強さは、成人男性たちは持っているものなんじゃないの?」
ベ「僕は・・・軟弱な芸術家だ。
美しいものが好きで、野蛮な戦いは嫌いだ。
だから、《ホイミ》と《メラ》と《ヒャド》くらいしか使えない。ブランカで一番のへっぴり腰なんだ・・・」
ア「え?じゃぁ僕と同じだよ!」
べ「なんだって!?」
ア「僕が使える魔法だって、《メラ》と《ヒャド》だけさ。あと、さっき覚えた《レミらー?》」
キ「《レミーラ》」
ベ「なんだって!?
《メラ》と《ヒャド》だけで、異国の地からさすらってきたのか!?」
ア「うん。恥ずかしいハナシだけど(汗)まだ弱いんだ。僕たちは。
でも、弱いけどどうにかチカラを合わせて、根性入れてがんばってる」
ベ「・・・・・・!!
悪夢にうなされる日々を何年も続けなくても・・・僕は隣国までさすらっていける可能性があったのか・・・!?」
キ「悪夢にうなされながらもお城の料理を食べ続ける日々と、泥水を飲みながらでも自由に生きる日々と、どっちがいいかっていうハナシね♪」
ベ「・・・!
出たい!僕はここから出たいんだ!
すっかり遅くなってしまったけど、どうか僕をここから連れ出してくれないか!?」