エピソード5
3人は住む街から電車に乗って、北の崑崙(こんろん)山を目指した。
キャンパーたちに最近人気の山である。初心者向きではない。キャンプブームも成熟してきて、ちょっと歯ごたえのある山が望まれるようになってきていた。3人は、そんな内情は知らなかった。
な「よく考えたら、山登りもメンドイよなぁ」
ななは山が見えてくると、山は登山しないと楽しめないものであることをようやく思い出すのだった。
ハ「大丈夫だよ。ご親切にケーブルカーがあるらしいぜ」
ゆ「あれ?ななは運動苦手なの?」
な「そうでもないんだけどさぁ、暑いのも日焼けするのもウザいじゃぁん」
ハ「ほら!おまえオレの同志だよ!」ハヤトはななの背中をバンバン叩いた。
な「いやーん」
ゆ「まぁ日差しの中を歩きたくないのは同意(汗)せっかくの白雪肌が台無しだわ」
山のふもとには噂通りにケーブルカーがあった。3人は機嫌よくそれに乗り込んだ。
ケーブルカーは少しずつ高度を上げ、ふもとの町は段々小さくなっていく。
ハ「さらば故郷よ!」ハヤトは感慨深げに言った。
ゆ「いちいちキザなこと言うのヤメなさいよ」
終点の駅で降りる。
随分高いところまでショートカット出来た・・・と思ったが、峰はもっとずっと高く、遠くまでそびえ立ち、連なっていた・・・
な「だまされた気がする・・・(泣)」
ハ「誰も頂上まで連れていくとは言ってないな!」
ケーブルカーの頂上駅のそばは、広く展望台公園が開けており、休日の簡易なレジャーを楽しむ人は満足そうにベンチやオープンカフェで町を見下ろしていた。
ゆ「キャンプ場はどこなのかしら?」
ゆなは山の見取り図の看板でもないか、キョロキョロと眺めた。
ハ「おいおい!キャンプ場に直行してもつまんねぇだろ!
ちっとは山を冒険してから寝床を求めようぜ」
ゆ「山の日暮れは早いのよ!テント張るのに時間だって要るでしょ?」
ハ「そうだけど、ちょっとはうろつく時間もあるだろうよ。
テントなんか張らなくてもバンガローがあるだろうしな」
な「見て―!かわいいお花が咲いてるよー!」
ななは珍しい花につられて、すでに歩き出していた。
ゆ「待ちなさいよ!」
ゆなはななを、小走りに追いかけた。
な「見てー?かわいいお花」
ななが見とれた花の近くには、小道が通っていた、3人は何の気なしに、その道から山に分け入ることになった。
ゆ「・・・それにしても、登山客がぜんぜんいなくない?」
な「マズいとこ来ちゃったのかなぁ?」
ハ「キャンプブームも下火って噂だぜ。
山は賑わってるけど、みんなあの展望台で景色見て帰っていくんだろ。
よっしゃぁバンガローも空室だらけだなきっと!
一番安い部屋頼んでもさ、『空いてますから』とか言って気前よくスイートルームにグレードアップしてくれたりするんだよ!」
な「やったぁスイートルーム♪」
ゆ「コイツの勝手な妄想よ!信じ込まないで!
ていうかキャンプに来てスイートルーム求めるって、なんか矛盾してない!?」