エピソード56
さて、《WANTED》の掲示板を眺めてみる。
宗教に関連するもの、夜遊びに連れ出せと請うもの、薬草に関するもの・・・この街らしい依頼も数多くあった。
あまりきな臭くないものがいいな、それは満場一致なのだった。
一行が選んだ依頼はこれだ。
『新手の食中毒が流行り始めています。特効薬を調合したいが、モルフォアドニスという珍しい蝶の鱗粉が必要です。採集のうえ王立研究所まで』
キ「あぁ、モルフォアドニスね♪かわいいチョウチョよ♡」
な「キキちゃん知ってるの?」
キ「昔遊んだことがあるわ♪」
ふむ。どうにかなるかもしれない。
まずは情報収集だ。モルフォアドニスとはどこにいるのだろう?
町の人に尋ねてみると、どうも近くの花畑で飛んでいる姿を、結構見かけるらしい。しかし警戒心の強い虫で、なかなか人間と関わり合ったりしない。飛ぶスピードも速いらしい。
なるほど。協力の依頼が出るわけだ。
この依頼に向けて、虫取り網や虫取りカゴを販売する商店まで出てきている。
ななが「虫取り網買おうよー?」と言ったが、「要らない」とキキは返した。
カゴだけ1つ買っていった。
一行は、噂の花畑を探した。
聖都から一里も離れてはいない。色々な種類の花が咲いていた。
そして、そこには花畑にはまるで似つかわしくないゴツい男たちの姿がちらほらと見受けられた。
ゆ「この依頼を受けている人が他にもいるんだわ」
ベ「依頼の中には複数の者に競わせるものもあるよ」
ア「まぁそうだよな」
な「えぇ、負けちゃいそう(汗)」
キ「負けてもイイわよ♪暇つぶしにはなるんだから」キキは余裕しゃくしゃくと言った。
そしてゴツい男たちが懸命に虫取り網を振り回す姿は、まことにコッケイだった。
な「ぷぷっ!」ななは笑いが堪えられない。
ゆ「ほら、人のこと気にしてる場合じゃないわよ!」とゆなはななをたしなめる。
ベ「でも網も用意しないでどうやって捕まえるんだ?」
アミンは、とりあえず近くにいる他の蝶を、素手で捕まえてみようと試みた。
ア「んーーーーーー、えいっ!」
しかし、するりと逃げられてしまう。
2度やっても3度やっても、あっさりと逃げられてしまう。
ア「ひょっとしてキキ、この依頼を使って僕らの敏捷性なんぞを鍛えようとしているのかい?」これは意外とシンドイぞ!とアミンは青ざめた。
キ「うふふ。違うわよ♪
チョウチョと追いかけっこなんてしなくてもいいわ。
ほら、お花畑がすっごくキレイじゃない?
とりあえず今日はお花畑で遊びましょうよ♪
お花摘んだり、寝転んで昼寝もいいし、ブローチ作ってもいいし♡」
4人「えぇーー!?」
まぁいいか。他の男たちも苦戦しているようだし、別に今日終わらなくたっていい。
一行は花畑の中にしゃがみ始めた。
しゃがんでしまうと、周囲は本当に鮮やな色に包まれていた!なんだこのメルヘンは!
最初のうちは「ちゃんと仕事しなくていいのかな」とヤキモキしていたが、4人はそのうち、このユメセカイにうっとりして、花の香りの中で5歳の少女のように遊びはじめた。
ななは花びらをたくさん集めてブローチを作ろうとしている。
ゆなは茎から摘み取って花冠を作ろうと試みる。
アミンは花びらをむしっては髪や体にこすりつけた。自分の体が、今日だけでも良い匂いになるのではないかと期待して。
ベロニカは花の香りを大きく吸い込みながら、すぐに眠ってしまった。
キキもアミンと似たようなことをした。ピンクの花びらをむしって、頬っぺたにこすりつけた。
「ピンクのチークかわいいでしょ♡」
または色々な色の花びらをむしっては、自分の白いハンカチにこすり付けていく。そしてそれでささやかに絵を描こうと試みている。
1時間も夢中になって飽きると、キキは仰向けに寝転んだ。
そして揺れる花の美しさと、穏やかに青い空の美しさにぼんやりと見とれていた。
するとだ・・・
十数匹ものモルフォアドニスが、キキの体に停まっているではないか。
キキは驚きもせず、声も出さない。
「うふふ」と小さく笑うと、手をすっと前に出した。
すると10のモルフォアドニスは、様々な花の香りに彩られたキキの手に、なつくように留まるのだった。
キ「ほら、お仕事完了♪」
