エピソード56
4日後の満月の夜。
小高い丘の上に儀式の祭壇は設けられた。
儀式用の小さなテントには、民族衣装を着て化粧をしたデイジーが入る。
そして真夜中。
「山の神様。今年の生贄がやってまいりました」
とデイジーは2オクターブ高い可愛らしい声色で、力強く言った。
酋長とワイズ、れいは木陰からそっと見守る。
しばしの沈黙の後・・・
オォォォォォォ―――ン!!
聞いたこともない鳴き声とともに、やまたのおろちが姿を現した!
5つの首を持つ、体のとても大きな緑色のドラゴンである!!
ザシュっ!
デイジーはテントを中から剣で引き裂いて姿を現した。
デ「おぉ、竜か。
獰猛な顔をした悪い竜だな」
デイジーは、いつもの細身剣と違う大きな剣を手に持っている。相手が大きくて硬いことを見越しての策だ。
ワ「わわ!本当に戦えるのかあんな化け物と!」
やまたのおろちは巨体を揺らしながら炎を吐いた!
デイジーは飛び上がって炎を交わす。しかし飛び上がったところをやまたのおろちは別の頭でなぎ払った。
デイジーは地面に叩きつけられる。
酋「に、逃げるぞ!」酋長とワイズは丘を下っていった。
れいは逆に、物陰から飛び出した。
れ「《ホイミ》!」デイジーの傷を回復した。
5つある首はそれぞれに独立して思考し、独立して動く。敵は1体だが、5体を相手にしているようなものだ。
デイジーは素早く横手に回って、大きな剣で豪快に斬りかかる!やまたのおろちは悶絶している。やまたのおろちは右の足を負傷し重心を失った。
やまたのおろちは再び炎を吐いた!炎は広範にわたるのでやはり飛び上がるしかない。
デイジーが飛び上がって身をかわすと、今度は違う首が《焼け付く息》を吐き出した!食らうと体がマヒしてしまう息だ。
自由の効かない空中ではその攻撃をかわせない!
デイジーは体がしびれてしまった!
れいは駆け寄る!デイジーに《まんげつ草》を使った。
れ「じきにしびれは取れるはず!」
それまで時間を稼がなくては!
れ「炎の魔法は効かなそうだわ。《ヒャド》!」
れいは焼け付くを吐き出した首めがけて《ヒャド》を放った。凍り付いて痛がっている!
しかしすかさず他の首がれいを攻撃してくる!
れ「5体いるようなものだわ!どうすれば・・・。一体ずつ攻撃したんでは埒が明かない。
そうか、こういうときに《イオ》だわ!」
れいは《イオ》を唱えた!
広範囲に爆発が起こる。やまたのおろちのすべての首が痛がっている。しかしダメージは小さいようで、すぐに居直ってしまう。
れ「もっと強い集団攻撃魔法を覚えたい!」
やまたのおろちはれいに向かって炎を吐き出した!
逃げてもそこを突かれるだろう。れいは一か八か、盾で身を守ってみた。《メラ》ならこれで防げたはずだ!
しかし炎はそうはいかなかった!強烈な風圧を盾は防ぎきれず、れいは突き飛ばされる!そして熱い!
デイジーが立ち上がった!
デイジーは神速の居合いで、焼け付く息を放つ一番右の首を斬り倒した。
ンギャー!やまたのおろちは身悶えている!
やまたのおろちは怒り狂い、デイジーの右手の剣をかみ砕いた!
バシーン!デイジーの剣は、折れはしないが手から離れ落ちてしまった!
れ「まずいわ!」れいはデイジーの剣を拾おうと走る。
デ「いや拾わなくていい!隙を作るな!」れいにそう叫ぶと自分はやまたのおろちに居直り、両手にチカラを込めた。
デ「ふぅぅぅぅ・・・、《マヒャド》!!」
デイジーの手からすさまじい氷のハリケーンが放たれた!!
無数の氷の刃がやまたのおろちを引き裂いていく!
やまたのおろちをやっつけた!
れいはデイジーに駆け寄る。
れ「デイジー!魔法まですごいなんて!
《マヒャド》っていうのはたしか上級魔法だわ!」
デ「あぁ。武器に依存するようでは一人では生きていけないからな」
れ「足手まといでごめんなさい」
デ「いいやそんなことはない。
れいの戦いを見ながら、学習しながら奴に対峙した。
おまえの行動は役に立っている」
遠巻きに様子を伺っていた酋長とワイズが戻ってくる。
酋「おまえたち、強いのだな」
デ「オレを敵に回さないほうがいいぞ」
ワ「ありがとうございます!ありがとうございます!
これで娘も助かりました!」