エピソード61
なんと目の前の壁が、山の内側に口を開き始めた!
デ「やはり内部に洞窟があるのか!」
挑戦者の訪れを感知して、洞窟の壁のロウソクが勝手に灯った。しかし奥はよく見えない。
デ「魔法のチカラが働いているな」
れ「セーニャ、がんばって!きっと出来るわ!」
セ「は、はい」セーニャはもう何がなんだかよくわからない。
デ「幸運を祈る」
セーニャは二人の声援を受けて、一人で洞窟の内部に踏み出した。
しかし、
デ「ちょっと待て!」デイジーがセーニャを呼び止めた。
デ「念のためだ・・・」デイジーは自分の《青銅の剣》を《ホイポイ》で具現化し、セーニャに手渡した。
セ「ぶ、武器!?」
デ「魔物がいる可能性が考えられる」
れ「壁画にはそんな描写は無かったわよ?」
デ「しかし『神は嘘をつく』と自分で言っている」
セ「うぅ・・・」
セーニャは武器を握るが・・・
セ「お、重い・・・」
デ「オレが持ってる中で最も軽いのを選んだんだがな」
セーニャは《青銅の剣》をまともに振り回せそうもない。
デ「うーむ」
れ「そうだわ!」れいは何かを思いついた。
れ「《ホイポイ》!はい。これなら持てるわ」
れいが取り出したのは、《聖なるナイフ》だった。
デ「おまえ!これは婆さんの大事な形見だろう!」
れ「いいのよ。形見は思い出に浸るためにあるものじゃないはず」
セ「れ、れいさん・・・!」
れ「いいの。使って」れいはセーニャを安心させるように、優しく微笑んだ。
セ「は、はい!」
セーニャは《聖なるナイフ》をしっかりと握った。
れ「あ!」れいはさらに何かを思いついた。
れ「これって役に立つかしら?」
れいは、ローブのポケットから小さな木の実を取り出した。
れ「前に教会の畑で拾ったの。
ねぇデイジー、これって何かしら?ただの食べ物でない気がするんだけど・・・」
デ「《いのちの木の実》だ!体力・・・生命力を少しだけ増やす効果がある!」
れ「これもあげるわセーニャ」
セ「いいのですか?」
れ「大事なときのためにとっておいたんだもの。こういうときに、使いたいの」
セ「あ、ありがとう!」
セーニャは《いのちの木の実》の皮を割り、口に入れた。
セ「うん!・・・よくわかんない」セーニャははにかむ。
しかし少し遅れて、セーニャの体は少しポカポカと暖かくなった。
デ「実感がなくても効果はある。少しタフになったよ。
よい、今度こそ行ってこい」
せ「はい!」
セーニャは再び、洞窟の中にそろりそろりと侵入していった。
彼女の姿が見えなくなる頃、入口はまたゴゴゴと音を立てて閉じてしまった。
洞窟の中のセーニャも、少し歩いたところでゴゴゴと入口が閉じてしまった音を聞いた。
セ「もう引き返せない。泣いてないで、やるしかないわ!」セーニャは自分で自分に喝を入れた。
そのとき、壁のロウソクの横にはまた石板がある。
セ「じぶん・・で・・・できれば・・・じゆうに・・なれます」
そうよね。何だって自分で出来たなら、自由に動けるんだわ。
洞窟は細い道が続く。ひたひたと、自分の足音ばかりが響いている。孤独は不安だが、魔物が遊びに来るよりはマシだ。
やがて、分かれ道に出くわしてしまった。
セ「えー!どうしよう。道を間違えたらどうなるのかしら」洞窟探検など、セーニャは知らない。
目を凝らしてみる。右の道は緩やかに上っている。左の道は緩やかに下っている。
右か、左か、右か、左か・・・迷っていると、また石板があることに気づいた。
セ「なまける・・と・・・ふけはじめ・・ます」
セーニャは、楽な方向に進みたい気持ちを懸命に制した。
セ「もう帰りたいけど、きっとまだ上る必要があるはずだわ」
セーニャは上り道を選んで進む。
合っているのか?間違っているのか?その実感もないままに、なんとまた分かれ道だ。
セ「あーんどうしよう」セーニャは再び、道の奥に目を凝らす。
なんと左側の道のすぐ先には、うっすらと宝箱が見える!行き止まりだとしてもすぐ戻ってこれる距離だ。
セーニャは宝箱に駆け寄る。
セ「開けていいのかしら・・・
勇気ある娘にはごほうびをくれるって言ってたわ」
セーニャは思い切って、宝箱を開けてみた!
なんと、美しい杖が入っていた!頭部には天使の像が彫刻されている。
セ「わぁ、すごい!これは貰っていっていいのかしら」
とても立派な杖だ!思わずほおずりする。セーニャとしてはご褒美はこれで充分なのだが、まだ最深部に辿り着いたとも思えない。分かれ道まで戻って、再び歩きはじめる。
セ「この杖は、登山に使うのかしら?」セーニャは少し、杖をつきながら歩いてみた。里の老人たちは杖をつきながら歩いているものだ。しかし、どうも歩行補助に適した形はしていない・・・
セーニャは杖を背中にくくりつけた。