エピソード65
町はさしづめ美術館のようであった。土産物屋も美術展だ。
な「買わないならいいでしょ?」ということで、女たちは芸術鑑賞に繰り出した。
アミンは目抜き通りに戻り、靴磨きや靴屋の様子をしばし観察することにした。
靴磨き屋の磨いた靴が、壊れたり汚れたりしてクレームが起きる様子はない。客は誰もが笑顔で帰っていく。
靴屋は2軒か3軒か。特段多すぎるわけでもない。
ショーウィンドーの内側では、やはり赤いヒゲの小柄な男が、黙々と靴を作っている。無骨な働き者のように見える。
靴磨きの様子を眺めていると、どうも磨き屋たちは、金持ちそうな人間にばかり声を掛けているようだった。この町の住民であったり、商人や旅行者であったり様々だが、金持ちそうだという共通点がある。
しかし靴磨きなど金持ち相手の商売か。そのような気もする。
しばらくぼーっとして、観察に飽きも感じはじめた頃・・・
キャー!誰かの悲鳴が聞こえる。
女「私の靴はどこ!?」
座敷の食堂で食事をしていた女性の、靴がなくなったらしい。
女は遠方からローズクォーツの調度品を買いに来た、旅行者だった。
女「お店の店員が蹴っ飛ばしていったんじゃないの!?」と店の者に腹を立てて怒っている。
店「いいえ、そんなことはいたしません。うちの従者は教育を徹底していますゆえ」
従業員たちは慌てて周囲を探したが、店の中にも周りにも、彼女の靴は見当たらない。
女「大通りに靴屋があったわね。ちょっとサンダルを貸しなさい」
と、代替品のつっかけを履いて通りの靴屋に新たな靴を買いにいった。
アミンはその様子も見ていた。
女の目線で、改めて靴屋を覗くと、どうも中古の靴が多いように見受けられた。
ア「中古ばかりなんて、珍しいな」
鉱物を無用に掘り出して商売する町人、靴磨きをする変わった男たち、高級品を買い漁るぜいたくな人々・・・一体誰が悪者なのか、アミンにはよくわからなかった。
「何が起きているんだ?」頭の後ろで手を組みながら、ぼーっと歩いて考えていた。
夕刻。アミンが町のはずれを歩いていると、民家の屋根の上に誰かが座り込んでいる。
ア「おや?」見上げて凝視してみると、どうやら赤ひげの男の一人だ。
靴を抱えて何やら作業をしている。磨いているのではない。修復か。
ア「・・・!
レプラコーン?」
アミンは何かを思い出した。
ア「赤いヒゲの靴職人の妖精、レプラコーン。
どっかの地域にそういうのがいるんじゃなかったか?
『堕落した妖精』とか言われてるんじゃなかったか?」
アミンはいよいよいぶかしげて、男の手元を凝視した。
ア「昼間の女の靴によく似てるぞ!」
アミンは意を決した。
ア「おい、屋根の上のおまえ!」
赤ヒゲの男は不意に強い口調で呼びかけられ、慌てたようにアミンを見た。
赤「ドワーフ・・・?妖精仲間か?」
赤ヒゲの男はアミンがドワーフだとわかった。そしてすぐに警戒を解こうとした。が・・・
ア「おまえ、それ盗んだ靴だろう!」アミンが強い口調で睨むので、赤ヒゲはすぐに身構え直した。
赤「なんだ、邪魔をするのか!」
要領を得ない、という面持ちで、しかし結論には至ったようだった。
ピュ――――!!と鋭い指笛を吹くと、彼は素早く屋根から飛び降りた。
そして町のはずれへ逃げていく!
ア「待てっ!」アミンは奴を追いかけた。