エピソード66
地球のへその頂上からは、地上に続くであろう道が示されていた。
その道に沿って歩こうと試みる。しかし、意外にも急な坂道なのであった。セーニャは坂の傾斜に引っ張られ、ものすごいスピードで駆け下りさせられた!
セ「わたたたたたたた!!」
そして登山道はまた、地上2メートルくらいのところで途切れていた。そこからは無理やり飛び降りるしかない。
当然ながら、帰り着いた場所にれいもデイジーもいない。
セ「れいさーーーーーん!デイジーさーーーーーん!」
セーニャは大声で叫んだ。
セ「わたし、帰ってこれましたーーーー!!」
その声を聞きつけた2人は、すぐにセーニャを拾いに行った。
デ「おい大丈夫か!血まみれだぞ!」
セ「大丈夫です。今はもう」
セーニャは洞窟で手に入れた美しい杖を見せびらかした。
れ「わぁ、素敵な杖ね!それが試練のご褒美だったのね」
セ「いいえ、きっと違うんです。この杖はオマケ。
試練のご褒美だったのは、これ」
セーニャは麻袋の中身を手のひらに乗せて見せた。
れ「トウモロコシの種!?」
セ「農業をしろということなんだと思います。
私、これがつまらないご褒美だとは思いません。
それに、デイジーさんが言ってた通りだって、改めて確信しました」
デ「ふん。遠回りな神様なこった」
れ「でもその杖も素敵ね。天使の彫刻が付いてるわ」
デ「あぁ、これはとても良い品だよ。
《祝福の杖》だぞ。《ベホイミ》の効果がある凄い杖だ。
オマケなんてもんじゃないぞ」
れ「この杖を手に入れた娘は、ちょっとやそっとじゃ倒されない・・・。
そういうこと?」
デ「なんとなく試練の意図は理解出来た。
この試練を乗り越えた者が、里を守っていくんだろう」
里に戻った。
一行は、地球のへそでの冒険のことを詳しくは里の民に話さなかった。ワイズにさえ。
地球のへその試練は、おそらく貝塚であの壁画を発見し、解読するところから始まっているのだ。大勢の民があの洞窟に押しかけても意味がない。
・・・結局、真の冒険とはこのように、冒険した人々の心の中にだけ留まるのである。ガイドブックにも小説にも、その神秘は綴られはしない。
出発の日。
朝起きると、セーニャはデイジーに奇妙なことを言った。
セ「わたし明け方、印象深い夢を見ました。
鳥がどこまでも飛んでいきます。
そして赤い髪の女神が、私に言いました。
『ハヤブサは、どこまでも飛び去る』と。
これはデイジーさんに関連するのではないかと思ったのですが・・・」
デ「なるほど。
オレが探している《はやぶさの剣》は、そう簡単には見つかりそうもないぞ、ということだろうな。
それにしてもセーニャ。
おまえは天啓を受ける素質があるのかもしれない。
酋長になる、というのは嫌かもしれないが、おまえが天啓を受けることを里が受け入れながら、生きていけたらいいな」
セ「精一杯がんばります!」
セーニャは美しい瞳を輝かせて微笑んだ。
セ「それと、れいさんにも贈り物をさしあげたいのですが・・・」
そう言うと、里の民芸品らしき髪飾りを差し出した。
セ「わたしが作った髪飾りです。
魔物の攻撃から身を守るチカラはまったくありません。
でも、れいさんとデイジーさんをほんの少し、お守りできるかもと考えました」
れ「というと?」
セ「アライゾの伝統品らしい織物を身に付けていれば、お二人が他の里の民と出会ったとき、友好の目で見てもらいやすいと思いました。気にも留めない人も多いのかもしれませんが・・・」
デ「なるほど」
セ「えへへ。気休めのお守りと思ってくださいまし!」
れ「どうもありがとう!」
セーニャが思った以上に、れいは大きな喜びの声を上げた。
これは確かに原住民族との敵対を避ける効果がありそうだし、セーニャの想いが詰まった贈り物が嬉しい。そして、原住民族のお土産を得たようで嬉しい。頭におしゃれが出来て嬉しい。これはれいにとって、色々な面で嬉しいのだった。
2人は、このまま国を抜けることにした。ボンモール領から次の国へ。
アライゾの大地を北に行くと、山合いに国境があるらしい。それを目指す。
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