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エピソード71 『天空の城』

エピソード71


れいはさらに町を歩いた。迷子になりながら歩いた。先を急ぐわけではないのだから、防具屋を探しながらこのユニークな町の迷子を楽しむのだ。猫に出会い、子供に出会い、行き止まりに出会い、不良に出会う。

少し大きな通りに出ると、道端で絵を描きながら売る、路上絵描きを見つけた。そんなに買う人が多いとは思えない。しかし彼は恐らく、誰が買わずとも外に出て絵を描くのだろう。売る行為は「ついで」だ。

人々が何を考えているのか、何を思っているのか、想像しながら歩く。それはれいの想像が及ばないこともある。つまり頭の中にも世界はあり、れいは頭の中でも、自分の小さな村から外に出ているのだ。そうしてれいは、自分の世界を広げていく。そうして旅人は、自分の世界を広げていく。

想像したところで人の気持ちはわからないことも多々。話しかけてみる。失礼かもしれないが、「そんなにお客さんがいるのですか?」とも聞いてみる。すると「売ることは『ついで』であり、どっちでもいいんだ」という返事が返ってくる。なるほど、やはりそうなのか。


やがて防具屋を見つけた。民家であるが、ちゃんと大きな看板があった。看板というか、家の壁に大きく鎧や盾が描かれている。入ってみよう。

れ「防具を見せてください」

防「もちろんだ」

やはり色々な防具が並んでいる。魔法職ではなく戦士職のものが多いか。

れ「守備力を上げたいのですが、ごつごつした鎧は着たくないのです。何かお勧めはありますか?」れいは尋ねた。

防「元が《サフランローブ》ならまぁ選択肢は色々あるが・・・

 こんなのはどうだ?《風のローブ》だ。守備力は、まぁそこそこだが、敵の攻撃を身かわししやすい特殊効果がある。風の精霊の加護が宿ってるんだってよ」

これもまた立派な防具だ。

れ「しかし高いのでは?一点ものに見えます!」

防「いや量産品だよ。まぁそんなに多くも作られてはいないだろうけどね。

 3,000ゴールドだ」

れ「思ったよりずっと安いわ。でも・・・足りない。さっき武器を買ってしまったんです」

防「そうか。何か要らない武器防具を売ったらいい。何かあるだろ?」

れ「それもさっきやってしまったんです」

防「うーん。じゃぁ武器や防具でもないもので、要らないものはないのか?なんかちょっと珍しいアイテムとかさ」

れ「うーん。アイテム収集とかあまり興味がないもので・・・

 あ、そうだ!」

れいは、デイジーが譲ってくれたルビーの原石があることを思い出した。

れ「これはどうですか?」

防「宝石じゃないか!そうだな、1万ゴールドってとこだ」

れ「お願いします」

防「へへへ。商談成立だ」

れ「それにしても、コストパフォーマンスの良い武器や防具がこの町は多い気がします」

防「まぁね。貧乏人しか住んでない町だからな。

 そのわりに周囲に巣食うモンスターは弱くはないからなぁ。

 するとまぁ武器屋や防具屋は、コスパの良いアイテムを仕入れようって発想にもなるよ」

町のカラーというのが、こんなところにも出るものなのだな。

《破邪の剣》と《風のローブ》を装備して、れいはこの町に来たときとはちょっと別人のように見える。りりしくて格好いい。心なしか背筋も伸びるのだった。



そろそろ帰るかな。と思って歩き出す。

すると、どこからか呼ぶ声がする。

女「勇者様!勇者様!」

ひょっとして私のことか?とれいはキョロキョロする。

女「お強そうな勇者様!ちょっとチカラを貸してもらえませんか?」

れ「なんでしょう?」

女「庭で悪魔みたいのが暴れているんです!退治してくんなまし!」

それは放っておけない!れいは町人に着いていった。

すぐ近くの民家の小さな庭で、おにこぞうが暴れている。

れいは即座に退治してやった。

女「ありがとうございます!さすがは勇者様!

 これは心ばかりのお礼です!」

女はそう言うと、れいに500ゴールドを手渡した。

れ「あ、どうも」


なるほど・・・!れいは実感した。

「勇者様!」と呼ばれて人に頼られ、そして報酬金を貰うと、自分が偉くなったような気がしてしまう。そして「魔物退治は実入りの良い稼ぎだ」と味をしめそうになる。こうして、魔王を退治するわけでもない、正義かどうかもよくわからないエセ勇者が増えていくのだ。それなりに人助けも魔物退治もしているのだろうが、動機はエゴイスティックである。

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