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エピソード85 『天空の城』

エピソード85


幾つかの階段を上がると、ひと際立派なフロアへと辿り着いた。

兵「ここは王の間。何用だ!」

れ「王様に謁見に参りました。戦力をお求めと伺っていますが」

兵「おおそうか!通るが良い」


立派な玉座は、威厳に満ちた、でも下がり眉な王が座り、落ち着きのない大臣がそのそばをウロウロしている。

れ「サザンビークの王様、謁見に参りました。

 田舎の村出身の不束(ふつつか)者ですが、何かお役に立てないかと」

王「おぉ、よくぞ参られたぞ」

大「なんだ女か。いやいいんだ。強ければ歓迎するぞ」

れ「失礼ながら、詳しい事情を存じ上げておりません。

 何か国がお困りごとなのでしょうか?」

王「困りごとというほどでもないがね。

 我が王子チャゴスがそろそろ、成人の儀を迎える。齢16となった。

 いつでも我れの後を継げるようになっておいてもらいたいが・・・頼りない子でのう。

 我れが強すぎたゆえ、王子にはあまり戦闘も訓練も積ませなかった。

 貧弱なら貧弱なりに、頭脳政治のポジションに専念させれば良い気もするが・・・」

大「なりませんぞ王!

 この国の王は代々、武勇でなくてはなりません。それによって平安と領土拡大を続けてきました。

 祖先たちの努力を現王が踏みにじるのですか!」

王「いやそういうつもりはないが・・・」

大「王子には、この国の掟通り、洗礼の儀式を越えて頂かねばなりません。

 形だけで良いのです。おっしゃる通り、政治は王や私でどうにでもなる。

 しかし儀を越えなければ、国民の信頼を得られませんぞ。もやしに国は任せられません」

王「しかしあの子には・・・」

大「まだ心配なさるのですか!」

 そのために用心棒を募るのでしょう!強そうな者が何人か集まっております。王子の儀は続行で大丈夫です」

王と大臣は二人でヒートアップしてしまっている。れいはなだめがてら話に分け入った。


れ「王子様の儀式に着いていく護衛を求めている、というお話でしょうか?」

大「そうじゃそうじゃ。頭の良い女じゃのう。

 この国の王子は代々、城の南の英雄の洞窟に、冠を取りにいくのじゃ。道中にも洞窟にも魔物が出る。

 その用心棒を願いたい。」

れ「そう難しいことではないように思えます」つい最近まで用心棒をしながら町を越えてきたれいだ。

大「それがのう、洞窟にはとても手強い魔物が出る。

 我が国の兵士では太刀打ちできそうもないゆえ、他所から用心棒を募っておるのじゃ。

 命の危険がないとも言えない。

 じゃが、それなりの報酬を用意しておる。《いかずちの杖》じゃ」

れ「はぁ」

大「はぁじゃと!?さてはおぬし知らんのじゃな!

 《いかずちの杖》と言えば、伝説の武具として知られるものの1つ!

 遠い昔、魔王討伐を果たした魔法使いが使っていたこともある。あちこちの王家に伝わってきた。

 由緒だけではないぞ。念じて振りかざせば《ベギラマ》の魔法を発射する!魔力を用いずにじゃ」

れ「なんと!」

それはすごい!伝説の武器であり、魔法使い用の杖ではないか。れいは次は武器事典の本を入手しなければ、と思った。

れ「ぜひやらせてください!」褒美を聞いて声の大きさが変わるのも下品な話だが、大魔法使いに憧れるれいにとってこれは現実だった。

大「よしよし、良い返事じゃ。

 しかし・・・

 隊列の関係上、連れていける用心棒は2人が限度。

 すでに6人の志願者がおり、そなたは7人目なのじゃ」

れ「えぇ!」

大「そこでな、志願者たちには1つずつ手合わせをして頂きたいと思うとる。

  全員に勝つ必要はない。1試合ずつ見せてもらえば強さはわかるじゃろう」

れ「そうですか・・・」


れいは途端に弱気になってしまった。用心棒に志願するほどの冒険者には、勝てる自信がない。7人のうちの上位2人というのは、れいには壁が高すぎる・・・

大「むむ。急に気弱になったぞ?」

れ「そんなに戦闘能力に自信があるわけでもないもので・・・」れいは正直に打ち明けた。

大「チャンスはあるじゃろう。そなた剣士じゃな?」

れ「え、えぇまぁ」

大「戦士と魔法使いと1人ずつ連れていきたいのだが、戦士はおぬし含め2名しかおらん。その者に勝てばおぬしは確定、というところじゃ」

一人に勝てばよいのか。奇跡かまぐれが起きる可能性は、あるな。

れ「わかりました。やってみます」

大「よしよし。今日は休みなさい。

 城の裏手に兵士たちの稽古場がある。明日の正午、そこで手合わせを開催する」

王「謁見ご苦労。そなたに神のご加護があらんことを」

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