エピソード88
サチの依頼どおり、一行は酒場に向かった。
な「ゆな、お姫さまに間違われるなんていいなぁ」
ゆ「なにその奇妙な嫉妬心(汗)」
キ「そうよなな、声の役者さんになりたいんだから、ときにはお姫様と間違われるくらい麗しい言動をしてみたって良いんじゃない?」
な「えぇ、無理ぃ(汗)」
サチの依頼書をはがす。
昼下がりの酒場は空いていて、夜の営業中とは異なる独特の空気を持っている。まばらな客が、静かにジンジャーエールなど飲んでいたりするのだ。
「他にも何か、依頼をこなしてみようかな」そんな気持ちで4人は掲示板を眺める。
先日はなかった依頼が目に付く。
キ「こんなのあるわよ?
『ソレッタの城まで運んでほしい』だって」
なるほど、きっと城が近くにあるのだな、と4人は思った。そして次の目的地を目指しながら人助けができるなら、一石二鳥というものだ。
キ「ほら、《報酬は20ゴールド》なんて、いかにもわたしたちにピッタリだわ♪」
ア「いいんじゃないか♪
えぇと、依頼主の住所は・・・
『酒場の隅のテーブルのオレンジジュースの前』
なんだこりゃ!?」
一行は酒場のフロアをキョロキョロと見渡した!
4人「いたー!!」
なんと酒場の隅のテーブルには、オレンジジュースを飲む若い男がこっちを見て微笑んでいる。
な「お兄さんがこれを書いたの?」ななが楽しそうに声をかける。
男「いやぁ、目に留めてくれてうれしいです♪」彼はニコニコと笑った。
男「それにしても・・・
弱そうな冒険者ですね(笑)」
4人「失礼な人だー(汗)」
男「あ、ごめんなさい!言葉が悪かった!
けなすつもりは毛頭ないんです!
こんなところまで旅してきているのに、ゴツゴツしていないならすごいなって思ったんです」
な「えっと、褒められているの??」
男「そうです。もしくは、『親近感』かなぁ。
なにしろ僕も、弱い旅人です(笑)
ここまでずーっと、すべての魔物から逃げてきたから(笑)」
4人「よわー!!」
キ「ていうか、それはそれで逆にスゴくない!?」
男「あはは。ちょっとまずはお茶でもしませんか。僕はトーサカ」
二十歳くらいであろうか。体は細身で、国1つの距離を野宿で乗り越えるのも心配になるような容姿をしている。文化系のように見える。そしてこの若さなのだから、一行もなんとなく親近感が湧く。
茶の誘いを断るつもりはないが、くるみのケーキを食べたばかりでお腹はいっぱいだ。
とりあえず同じテーブルに着席することにした。
ア「僕はアミン。君、すべての魔物から逃げてきたって?」
ト「あはは。本当にそうなんだ!
もうかれこれ100日くらい旅してるけど、魔物と1度も戦ってないよ」
ゆ「なぜ冒険してるの?魔王を倒すの?そうは見えないけど・・・」
ト「魔王?そんなのいるのかな?
とにかく魔物を倒すようなことはぜんぜん興味ないんだ。
冒険者を名乗るつもりすらなくて、僕はあくまで旅人さ」
な「旅人??冒険者とちがうの??」
ななたちは自分を冒険者だと名乗ってきた。
ト「ただ旅がしたいだけだからね。色んな景色が見たくて、色んな人に出会いたくて旅に出た」
ゆ「そういう人もいるんだ・・・!」
キ「この時代、この世界じゃ珍しいんじゃない?」
ト「どうだろう?そうかもね。
さすらう理由なんて人それぞれでいいと思ってるから、あまり気にしてないけど。
それより、依頼に応じてもらえるのかなぁ?馬車を持ってたりするの?」
ア「馬車で旅してるよ。
ソレッタという国に行きたいの?」
ト「そうなんだ。ずっと東に行けばあるはずだよ」
キ「・・・行けばイイんじゃない?これまでだってそうしてきたんでしょうから」
ト「そうなんだけど、足をくじいてしまってね。
ソレッタで、1週間後にフェスティバルがあるんだよ。それまでにソレッタに行きたかったもんで・・・」
ア「それで馬車を求めたわけか。いいんじゃない?」
アミンは3人の顔を伺う。一同、笑顔でうなずく。