エピソード9
3人は再び、あてもなく歩いた。
日が暮れてしまう前にどこかに辿り着きたかった。願わくばキャンプ場に。そうでなくても人のいるところか、または屋根のあるところに・・・
しかし、げんじつはそうあまくなかった!
19時を過ぎ、山の中を歩き回ることがこれ以上は無謀だと観念すると、3人はそこで歩みを止めた。
野宿をするしかない。
な「あぁあ~寝袋くらいは持ってくれば良かったぁ~」
ゆ「誰よ?手ぶらでもカンタンだとか言ってたのは!」
ハ「オレたちの修学旅行は『野宿』じゃねぇ。『キャンプ』の予定だったハズだろ」
ゆ「野宿だったらどうなのよ?」
ハ「何にも知らねぇ。そんなの経験したことあるはずもねぇだろ!」
な「何でも偉そうに言うねぇ(汗)」
ゆなはハヤトがあてにならないことを理解すると、無い知恵を絞った。
辺り一画を整備し、火が燃え移らないよう細心の注意を払って小さな焚き火を作った。
幸い着火道具はハヤトが持ってきていた。
な「暖かい火を~ 囲んで座ろう~♪」
ハ「あぁ!ここで高級霜降り肉が登場する予定だったのに!(泣)」
な「動物は火を怖がるって、本当なの?」
ゆ「本当であることを、祈るしかないわ」
幸いにも、その日の夜襲は、冷えと空腹と大きなダンゴムシだけにとどまった。
いいや、冷えと空腹だけでも、これまで戦ったこともない大きな敵だった。
シャー!シャー!シャー!
翌朝。奇妙な物音でななとゆなは目を覚ました。
シャー!シャー!シャー!
ハ「よし、こんくらいでイイだろう!」
ゆ「朝っぱらから何やってんの?」
ハ「じゃーん!《はやぶさの剣(偽)》」
ハヤトは棒切れを削って、RPGの剣もどきを作ったのだった。とても完成度が低いが。
ゆ「ちゅ、中二病全開(汗)」
な「切れるナイフで、切れない剣をつくったの?(汗)」
ゆ「あなた、バカなの?それともポジティブなの?」
ハ「ポジティブなんだよ。もう引き返せねぇんだ。だったら思いきり楽しむしかねぇだろ!」
な「えぇ!もう引き返せないの!?」
ゆ「引き返せるわよ!帰り道を探しましょ」
ハ「そんなこと言ったって、どっちに歩けばいいんだよ?
360度のうち359度は、もっと深い冒険に続いているだけだ。家に帰れるのは残りの1度だけだぜ」
ゆ「だから、キザにヘンなこと言わないでよ(汗)」
ハ「とにかく、テキトーに歩いて帰れる確率は1%もないってことだよ」
な「がーーん!!」
ハ「でも帰ったって刑務所だ」
そうだった!ななは思った。
な「刑務所に帰るのと、飢え死にするのと・・・」
ハ「飢え死にするとは決まっちゃいない。飢え死にする前にどっかヘンなとこに辿り着くかもしれない」
な「ヘンなところって?」
ハ「エルフの隠れ里とか!」
ゆ「ゲームのやりすぎよ!」
な「エルフの里かぁ♡」しかしななもワクワクしてしまうのだった!
3人は、朝食も摂らずに歩き始めた。摂る朝食もないのだった。
しかし《はやぶさの剣(偽)》を手に入れたハヤトは、意外と元気だった。剣をふりふり、意気揚々と先頭に立って歩いた。
そしてななは、「エルフの里に行けるかもしれない」というモチベーションによって少し上機嫌だった。
な「止まることもなく~ 歩き続けていたのぉ~♪」
ゆなは一人シリアスに、なぜこんなことになってしまったのか、この旅は一体どこに通じているのか、思索に耽りながら歩いた。しかし答えなど見つかるはずもなかった。
ハ「何時か知らねぇけど、まぁ日暮れまで10時間は歩けるだろ!」
「まだ日が長い」という事実が、一行を少し勇気づけた。今目の前には雑木林以外に何も見えないが、10時間も歩くなら何かに出くわす期待は持てる。・・・少しは。
しかし、「少し」の期待を燃料に歩いていくしかないのだと、ゆなは腹をくくった。
しばし歩いた頃。
ハ「おい!家が見えるぞ!」
3人はなんと、山の中に見事、人里を見つけたのだった!