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エピソード93『世界樹 -妖精さんを仲間にするには?-』

エピソード93


フェスティバルが幕を閉じると、旅行者たちはだんだんに町から消えていった。

一行は先を急ぐ旅でもないゆえ、お祭りの高揚のないソレッタも見たいと思い、もう少しここでのんびと過ごした。


ダンサーたちの中には観光レジャーを兼ねる者もおり、終演後に食堂の片隅で出会ったりすると、互いに抱き合って喜び、「私の国に来たときは観光案内してあげるからね!」などと親睦を深めるのだった。


各地から観光客が集まる性質ゆえ、グルメも充実していた。異国から移住してきてその国の料理屋を営む者もいる。

ある日のランチでは、ななたちはエンドールでよく食べたコメを使ったリゾットを見つけて、その馴染みある触感を懐かしんだ。


ソレッタの町でも世界樹についての情報収集をしたが、めぼしいものは無かった。魔王について語るものも無かった。

新しい目的が見つからないとわかると、一行は酒場を目指し、《WANTED》の掲示板を眺めた。

『コメを収穫する稲刈りの作業を手伝ってほしい』

アミンはこの依頼に親近感を抱き、仲間たちに提案した。3人は同意した。

ア「えぇっと、依頼者の住所は・・・」

「シコク村」と書いてある。ソレッタ城下町ではないようだ。

酒場で飲んでいる町人に尋ねてみると、その小さな村はほど近くの南方にあるとのことだった。


ななたちがソレッタを去るのと同じタイミングで、トーサカも旅立つこととなった。ななたちとは別れて。

なんだか寂しい気もするが、ベロニカのときほどの寂しさは感じない。

ななは「なぜだろう?」と考えてみた。

1つは、別れに免疫が出来たからだと思った。

そしてもう1つは、トーサカはベロニカと違って自立しているからだと思った。ベロニカはななたちがいないと旅が出来ないので、離れることに心配を感じる面がある。だから戸惑いを感じる。しかしトーサカは、ずっと一人で旅をしてきた者で、その話をたくさん聞いた。ソレッタの町でもちょいちょい別行動をした。彼と離れても、彼を心配する必要はないのだった。

「別れ」における寂しさは、様々な感情の複合なのだと気づいたななだった。そしてそのときによって、構成されるスパイスの割合が違うのだ。

キキはトーサカに、少し立派な革靴を買って贈った。



―シコク村―

馬車はシコク村に辿りつく。

集落が見える前から、広大な田んぼが広がるのが目に入った。

不思議な景色だが、これがコメを作るための農地であることをななもゆなも知っている。エンドールの田舎にもこのような風景や文化はある。

金色の田んぼは、頭(こうべ)をゆさゆさと垂れながら、今か今かと収穫されるのを待っていた。


シコク村の集落に辿り着いた。

馬車の訪れを、村人たちはそう動じていないようだった。そう愛想が良くもないが、怒っている気配もない。

ア「ターシャという人はどこですか?稲刈りの手伝いをしに来たんです」そう声をかけて周ると、川のほとりで洗濯に勤しむ女性におち当たるのだった。

ア「あれぇ、女の人だぁ。

 すみません僕たち、ソレッタの貼り紙を見てきました。稲刈りのお手伝いをしようと思って」

タ「まぁまぁ、ようこそおいでくださいました!

 はい。私が募集をかけたターシャですよ」

ターシャと名乗る女性は、50歳くらいの初老の華奢な人であった。


ターシャに引き連れられて、4人は村のはずれの田んぼに戻る。

ゆ「一面金色で美しいですねー!」

タ「そうねぇ。田んぼは季節によって色を変えて。気まぐれだけど可愛いわ」

ア「野良仕事、男の人に任せたりしないの?」

タ「この村では、女も野良仕事をしますよ。屋根の藁ぶきだって女もします」

ア「へぇ。頼もしいもんだね」

田んぼが近付くと、すでに稲刈りの作業に励む人がちらほらいるのが見えた。色々な服装の人がいる。

タ「ソレッタの城からね、他にも何十人も来てもらっているんです」

ア「そんなに余所者を雇うお金があるの?」

タ「シコクのお米は、その多くをソレッタが買い取りますからね。

 観光客の多い街ですから、食材がたくさん要ります。

 シコクのお米が支えている面もありますからね、報酬うんぬんではなく稲刈りを助けてくれる町民もいますよ」

ゆ「へぇ。持ちつ持たれつかぁ」


一行はターシャに教わりながら、稲刈りの作業に取り掛かった。

な「ふぃー大変だぁ。わたしいつまでできるかわかんないよぉ(汗)」

タ「おほほ。いつまででも良いのですよぉ。

 面積や日数を強要する依頼ではありません。みんなでやるものですからねぇ。

 辞めたくなったら辞めてしまっても良いですぉ」

ターシャにそう言われて、ななは心が軽くなった。

そして、意外に延々とやっていられる自分に気が付いた。エンドールにいた頃の自分だったら、稲刈りなど出来やしないと思っていた。しかし、今は旅を経て、ダンスの日課を経て、体力が付いているのだった。根気も。

沈んでいく夕陽に照らされながら、金色の稲穂はさらに繊細に色を変えていくのだった。「これもまた芸術だ。」目を細めて心を震わせながら、ゆなは思った。


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