エピソード94
日暮れと共に、一行は村へと引き上げた。
ターシャは自分の家へと4人を案内する。
タ「あぁ、ちょっと待ってくださいね!
私の家へお泊めしてもよいか、卑弥呼様に一応伺ってきますんでね」
ア「ひみこさま?村長さんのことかな」
ターシャは村の真ん中の大きな屋敷までひょこひょこ歩いて、すぐに戻ってきた。
タ「良いとのことですよ。さぁさ、入っておくんなまし」
4人はターシャの家に上がらせてもらった。大きな三角の、藁ぶき屋根のお家だった。
囲炉裏に火を入れ、ターシャは夕食の準備を始める。
タ「適当にくつろいでおいてくださいな」
そう言うと自分は台所に赴き、何やらザクザクと食材を切っているようだった。
しばらく待っていると、具だくさんの雑炊が出来上がる。
ア「そう!ソレッタでも食べたけど、このなんかしょっぱ美味しい汁がイイんだよなぁ!」
タ「おほほ。お醤油のことでしょう。シコク自慢の調味料です」
ア「でもなんか物足りないような・・・」
ゆ「あ!わかった、動物性の食材を使ってないからじゃない?」
ア「そうか。毎日雑炊でも歓迎なんだけどさ、明日は鶏肉でも入れてくれない?」
タ「鶏肉!?この村じゃそんなもの食べませんよぉ!」
ア「えぇ?じゃぁ豚肉は?」
タ「豚肉も食べません。
おほほほ。そうですね。他所から来た人には珍しいようですね。
この村では、動物を殺して食べたりはしないのですよ」
ア「そうなんだ!どうして?」
タ「おほほ。簡単なこと。
人間は肉を食べるようになったから、獰猛な動物と敵対するようになったんです」
ア「えぇ!?あぁ、でもそうか!」
タ「おほほ。察しが良いのですね。賢い少年だこと。
動物の旨味が美味しいことは、私たちも知っとりますとも。
でもグルメの欲のために、動物を殺そうとは思わない」
タ「昔はこの村も、狩猟をしていました。動物を食べていました。
でもあるときね、一人の女性が声を上げたんです。
『動物を食べるなんてかわいそうじゃない?』ってね」
な「へぇ!」
タ「すると。するとですよ。
その女性は、神から天啓を賜るようになったのです」
ゆ「天啓を!?」
タ「神が、彼女に話しかけるようになりました。
村の政治をこうしなさい、踊りを踊って体を鍛えなさい、女性たちも働きなさいってね。
・・・それが、初代の卑弥呼様。
それから代々この村は、天啓に従いながら平和に暮らしています」
な「へぇ~!卑弥呼様は神様の声を聞くんだぁ」
タ「ちなみにね、先日のソレッタのお祭りで審査委員長を務めたまおさん。彼女は先代の卑弥呼様ですよ」
4人「へぇ~!!」
新しい町に赴くたびに、新しい、面白い話が聞けるのだった。
これだから旅は辞められない。
翌日、稲刈りに出る前に、卑弥呼とやらに挨拶に行くことにした。
村の真ん中の大きな屋敷に出向く。
扉をくぐると、長い白髪の女性が丁寧にひざを付いて出迎えるのだった。
ア「こんにちは卑弥呼様!稲刈りでお世話になっている旅の者です」
婆「いえいえ、わしは召使いでございますぞ!」
な「お婆さん80歳くらいに見えるけど、卑弥呼さまはもっとお婆さんなの!?」
婆「いいえ、逆でございますぞ」
奥の間に通されると、そこに座しているのは一人のあどけない少女だった。
卑「どうも旅のお方、この度はシコクの収穫をお手伝い頂き、まことにありがとうございます」
4人「あ、あなたが卑弥呼様!?」
卑「左様でございます。第63代目の卑弥呼でございます」
ア「じゅ、十代に見えるけど・・・その若さで長老なの!?」
卑「長老?いえ、わたくしは長老ではございません。巫女長(みこおさ)です」
ゆ「長老じゃなくて、巫女のリーダーさん?」
卑「左様でございます」
な「あなたが、神様の声を聞いているの?」
卑「左様でございます。他にも、天啓を授かる者が少数いますが」
ゆ「他にもいるの!?」
卑「はい。巫女の修行をする女性が十数名います。
そのうちの誰かが、次の卑弥呼となるでしょう」
ア「卑弥呼って、世襲じゃないんだ」
卑「世襲ではございません。努力と気質の問題、かと」
ア「どっかの村のシャーマンのように、偉そうにはしていないんだね」
ななとゆなはホぺ族のことをうっすらと思い出した。あぁ、そんなこともあったなぁ。
卑「はい。卑弥呼が偉い身分だとは認識しておりません。
卑弥呼とは、パイプにすぎません。依り代(よりしろ)ですので」
な「じゃぁ誰が偉いの?わたしたち、村の偉い人に挨拶をしなくちゃ?」
卑「村長という身分の者はこの村にはおりません。
誰も偉くはありませんが、村の政治に大きく関与するのは、わたくしともう一人です」
ゆ「というと?」
卑「審神者(サニワ)であり兄の、ヤマトです」
な「はにわ??」
卑「さ、さにわです(汗)」
卑「わたくしが霊的な者と繋がり言葉を賜ったとき、それが本当に神なる次元の者の言葉であるかを審議するのが、サニワの役目です。
または、卑弥呼が自分のエゴで啓示を吹聴したりしないか、つまり『独裁しようとしないか』を審議するのが役目です」
な「うん??」
ゆ「要は、三権分立的なことよね?」
な「ますます???」
キ「謙虚で慎重、冷静、平等、欲がないってことよ」
ア「どっかの村のシャーマンとは全然違うってことだ!」
ゆ「神じゃない者と繋がっちゃうこともあるっていうことなの?」
卑「はい。たとえばひどく落ち込んでいるとき、低級霊の言葉を受け取ってしまうこともあります。
たとえば霊聴のチカラを持っていても、欲深い人は低級霊の言葉ばかり受け取ってしまいます」
ア「だから努力や気質が必要なんだ!」
卑「左様でございます」
キ「この村の人たちは、みーんな卑弥呼ちゃんや神の言葉に従うの?」
卑「そうともかぎりません。
たとえば、肉食を求める者もいます。そういう場合、この村を出てソレッタで暮らしたりします。そういう自由があります」
キ「誰も何も、強要はされない、と」
卑「ここは快楽の少ない素朴な暮らしですから、受け入れられない者もいます。
特に天啓政治が始まったばかりの頃は、反発する者も多かったと聞きます。
その頃から、近隣のソレッタに移住して住むという自由を尊重してきました。ソレッタにはシコク村出身の者もいますから、ここからの移住はそう難しくはありません。やがてまた帰ってくる者もいます。それも尊重します。
色々な生き方が、あってよいのでしょう。
そのために世界は広いのだと、神は言いました」
ア「なるほど・・・!」