エピソード96
一行が村を出ようとすると、出口のところに卑弥呼の兄が佇んでいた。
ゆ「あの、お声をかけてよいということなのでしょうか?」
兄「いえ・・・」
ゆ「あ、ごめんなさい(汗)」
兄「私がお声掛けしようと思って待っていた所存です」
な「わぁ♪」
兄「卑弥呼と、妹とたくさんおしゃべりをしてくださって、ありがとうございます」
4人「えぇ!?」
ゆ「むしろちょっと失礼をしすぎたかと気になっていました(汗)」
兄「いいえ、失礼も何もないのです。
あの子も自分で言ったかと思いますが、別にあの子も私も『偉い』立場ではない。
淡々と、上品に振る舞うべき立場ではあれども、人から特別扱いされることを、嬉しく思ってはいません」
な「どういうこと??」
兄「あの子は優秀な卑弥呼ではありますが、まだ15歳の少女です。
他の舞い巫女と同じように、本当はキャッキャとしていたい。
しかし興奮的な気質では卑弥呼は務まらないので、あの子は大人しくしています。
立派な家が与えられている、と思いましたか?いいえ、違います。
この村は快楽に乏しい村ですが、他の民以上にあの子は快楽から分離されます。
快楽に中毒すると、悪霊と繋がってしまう懸念が増えるからです。
卑弥呼とは、人生を賭する仕事です」
ゆ「そういえば、恋愛すらも許されないのでは?
私の知っている文化では、巫女の女の子は恋愛禁止なのです。結婚も」
兄「いいえ、そういうことはありません。
しかし、『恋愛を欲しない』というくらいの強い覚悟は必要になります。
恋愛に中毒しないでいることが、彼女の立場には必要なことです」
な「大変なんだぁ!」
兄「そうなのです。
神と繋がることに憧れを抱く者は多い。
でもそれを正確に遂行するには、人のために人生を賭する覚悟が要ります。
憧れだけで霊的な啓示を求めると、悪霊と繋がってしまいます」
ゆ「肝に銘じておきます」
ア「ありがとう」
兄「もう1つ、お伝えしたいことがあります。
この村の民は世界には疎いものでして、私も世界樹に関する情報を持ってはいません。
しかし、情報をお探しなら、さらに南下したところにある商業都市ベルガラックが役に立ちそうです。
商人たちは卑しく、お金をむしり取られる危険もありますが、情報に関しては豊富な人種です」
4人は卑弥呼の兄に手を振った。
な「いつかおばさんになっても、あの子たち一緒にダンスしてくれるかな?」
キ「運動不足にならないように、気を付けておかなくっちゃね♪」
一行は南を目指した。
馬車は今日も、同じように揺れている。
ゆなは不思議な気持ちがしていた。
旅というのは、人との出会いと別れの繰り返しだ。短期間では人と親しくなることは難しいのだと思っていた。
誰かと親友になりたいなら、学校や会社など、毎日顔を合わせる人が適任だと思っていた。
しかし不思議なことに、旅先で出会う人々とは時に、ほんの1時間の会話の中で、互いの心の奥底を見せ合うことになる。自分の本音を聞いて貰えることが嬉しく、他人の本音を打ち明けて貰えることが嬉しい。そんな妙な恍惚に、ゆなは感動していた。
親友が増えていく感覚がするのだ。生まれた町には親友が一人もいなかったのに。
やがて、賑わう大きな町が見えてきた。