第20章 おうさま
土曜日の夜、予定通り定例イベントは開催される。
ロマリア城の広間に、冒険者たちが集まっていた。
定刻どおりに王様が現れ、そしてイベントの開催を告げる。
王「《金のかんむり》が盗難の憂き目に遭った件は、皆知っておろう。
兵士たちが探しても犯人の捕獲には至らない。
よほど小賢しい、狂暴な悪人が潜んでいると見受けられる。
よって、これから我が国の闘技場を用い、バトルロワイヤルを執り行う」
衆「うぉー---!!」理由はともかく、参加者たちは熱狂している。
王「ルールを説明しよう。
試合は各チームとも、1試合のみ。1回勝てばよい。褒美をやろう」
衆「なに!?一戦だけでいいだって!?」
王「ただし、少々特殊なルールになっている。
チームは、今ここで結成してもらう。
今ここで、すぐ、『3人1組』のチームを結成するのじゃ」
衆「3人だって?どういうことだ!?」
リ「4人組や2人組のパーティばかりだとわかっているはずなのに、3人組だなんて!
まさか、仲間割れを誘っている…?」リオはいぶかしげている。王様を。しかしどうすることもできない。
リ「しかもこれ、アタシたちに不利だ!どうしよう!」
王「では、早速開始だ。
今、すぐ、ここの参加者たちを自由に用いて各々、3人パーティを組みたまえ。
制限時間は1分。はじめ!」
衆「うぉー!なにー!?」群衆は益々ざわつき、混乱している!
4人パーティは仲間割れを始める。最も役に立たないと思われるメンバーを外そうと罵る。ここまで一緒に協力してきた仲間を、罵りながら外そうとする。
そして、その憂き目に遭うのは大抵、僧侶の女の子であった。僧侶は、彼氏や兄に協力プレイを誘われて強引に引き込まれた女性プレイヤーが多い。あまり乗り気ではなく、ドラクエに詳しくもない。通常、僧侶はパーティに必須だが、まだ序盤であるこの時点では、回復は《やくそう》や道具でもしのげる。
強面ばかりの残ったパーティが次々に決定していく。残されたプレイヤーは適当に周りの人に声をかけるか、どうすればいいかわからずまごまごしている。2人組のパーティはやぶれかぶれ、まごまごしているプレイヤーに声をかけ、とにかく3人組を完成させる。広間は奇妙なざわつきと奇妙な緊張感に包まれ、憂鬱な空気が流れている。
40秒、50秒、時間は経過していく。
リオもマナもどうしていいかわからずまごついている。見知らぬ男のプレイヤーに声をかけたいタイプではないし、女の子の僧侶たちは、決して強そうに見えないマナたちに近寄ろうとはしない。
残り5秒、二人の前に残っていたのは、深緑色のローブを着たヨボヨボの老人であった。誰にも選んでもらえず、そこに佇んでいただけだ。
王「そこまで!最も近くにいる者たちをメンバーとみなす」
マ・リ「この爺さんと組むのかー(泣)」
っていうかNPCキャラじゃないのかよ!?とリオは心の中だけで叫んだ。
王「各自、あいさつや作戦会議を交わすがよい。
決闘は30分後に開催される。対戦の抽選はこちらで行う。以上」
マナとリオは引きつり笑いを懸命にしずめて、老人に声をかけてみる。
リ「ど、どうもこんにちは。アタシはリオ、こっちはマナ。
あなたのお名前は?」
爺「わしの名は、負け仙人じゃ」
マ・リ「弱そー-----!!(泣)」
リ「そ、そう(汗)じゃぁマケさんって呼ぼうかな。
マケさんは職業は?武器は何を持ってるの?」
負「わしはぶとうかじゃ。武器か?手ぶらじゃ」
マ・リ「弱そー-----!!(泣)」
リ「今回のイベント、ダメかもね(泣)」リオは小声で言った。
マ「次があるよ。とにかくがんばろっ!(汗)」
っていうかNPCキャラじゃないのかよ!?リオはまだその希望を捨てきれない。
マ「マ、マケさん、強いのですか?」マナは天然ボケらしく、本心を隠しきれず口を開いた。
リ「バカ!何言ってんのよ!」リオはマナを制止しようとする。
負「わしか?強いとは言えん」
マ「やっぱり弱いのかぁー(汗)」
負「弱いとは言っとらん」
マ「あ、すみません(汗)」
負「ふぉっふぉっふぉ!」
リ「と、とりあえずアタシたち、僧侶ですけど攻撃もできますんで!
マケさん防具も少ないようですし、あんまり無理しないでね!」
二人は負け仙人とやらに何を話してよいかわからず、二人の中であれこれと作戦を練って準備をした。
30分後。参加者たちは地下の闘技場に集結していた。幾人かはリタイヤして姿を消した。
相変わらずこの城は、不穏な空気に包まれていた。
対戦スケジュールが発表され、決闘は開始となった。
まもなくマナたちの決闘の番となる。
『僧侶だけで魔王を倒すには?』