第9章 さくせん
いもむしをやっつけた翌日。
二人は宿屋の小さなバーでお茶をしていた。
マ「そういえば、いもむしの洞窟に行ったときレベル上がったけど、パラメータポイントそのままだったんだよねぇ。どんなふうに振り分けたらいいかな?」
リ「そうね。そろそろしゅび力全振りってわけにもいかない気がするわ。
呪文に弱いって致命傷も明るみになったことだし、HPと、それと呪文モンスターに先制できる《すばやさ》も欲しいわね」
マナはHPとすばやさに多めに、そしてまたしゅび力にも振った。リオは相変わらず、バランスよくパラメータを上げていっている。
マ「あれ?最初のときあんま見てなかったけど、《かしこさ》とか《おひとよし》って、パラメータポイント振ることができないよ?どうやって上げるの?
リ「うーん。《おひとよし》なんてパラメータ、アタシも見たことないわ。
おそらくだけど、隠しパラメータみたいなものだと思う。振り分けで自分で上げることは出来なくて、何かプレイ内容や戦闘内容によってコッソリ上がっていくんじゃないかな」
マ「クエストで人助けしたら、《おひとよし》が上がるの?」
リ「そうそう!そういうカンジだと思うわ。
上の《ぼうけん度》ってのもそうでしょうね。ダンジョンを攻略することで上がったり、低レベルクリアを達成することで上がったり、するんじゃないかな。
《かしこさ》ってフツウはMPの上昇量に関連するけど、見た感じMP量と比例してないから、これも特殊な要因で上がっていくっぽいわ。『どくいもむしを低レベルで倒したらかしこさアップ!』みたいな。」
マ「エヘヘわたしのほうがリオよりおひとよし~♪」
リ「アンタは2日目に外が怖くて《やくそう》摘みまくってただけでしょ!」
宿屋の主人が二人に声を掛けた。
「そういえば、初めての定例イベントのおふれが出ているぞ。
君たちはもう見たかい?」主人は壁の貼り紙を指さした。
リ「定例イベント!?他のプレイヤーと競ったりするやつのことね!楽しそう♪」
第1回の定例イベントは、「女神の果実集め」だ。

世界中に散らばる《女神の果実》を各プレイヤーが集めて回る。その合計数を競い合う、シンプルな内容のイベントである。
リ「…対人戦だけど、殺し合ったり奪い合ったりするようなイベントじゃないわね。ホッとしたわ」
リオはイベントの内容を真剣に確認している。
リ「報酬は…上位1,000人に《メタスラの剣》だって!」
マ「《メタスラの剣》!?それぜったい欲しいやつじゃぁーん!
リオ、めっちゃがんばろ?弱くても努力でなんとかなるんじゃない!?」
リオはしばらく壁を見つめて、そして答えた。
リ「…いや…、たしかに弱いアタシたちでも健闘できうるイベントではある。
けど、このイベントはスルーだわ!」
マ「スルー??どういうこと!?《メタスラの剣》欲しいじゃん!」
リ「一見そう思うわよね。《メタスラの剣》なんてさもレア武器っぽいわ」
マ「そうよ!《メタルスライム》とかにもダメージ通るやつでしょ?だから経験値いっぱい稼げるよ!絶対ほしいじゃん!」
リ「そうだけど、まだメタル貫通武器貰ったってあんま意味ないわよ。
《メタルスライム》ならメタル武器なくてもどうにかなるはずだし、まさかはぐメタはまだ出てこないでしょ。そしてメタル貫通以外にはそんな長所のない武器だろうと思うのよね。そのために躍起になるよりは、みんながそれに夢中になってる間に他のことやって、他の戦力アップをしたほうが、有意義じゃないかって思うの」
マ「ほえ~。でも、弱いわたしたちが強くなるのに、レベル上げって一番重要じゃないの?」
リ「そうでもない。とアタシはにらんでる。
『強くなる必要はある』けど、『レベルを上げる必要はない』かもってね」
マ「レベルを上げないって?どういうこと?」
リ「アタシたち、『弱っちい』と思われてたほうが何かと都合がいいと思うのよ。これから対人戦とか出てくることを見据えるとね。
レベルが低ければ弱そうに見えるし、装備品がジミなら初心者っぽく見える。わざとそういうカンジを装ってたほうがイイかなって思うの。
昨日《ジャイアント・キリング》を身に着けたからなおさらよ」
マ「じゃぁどうするの?」
リ「うふふ。『果実集め』じゃなくて『木の実集め』よ♪」
『僧侶だけで魔王を倒すには?』