CHAPTER 20
何日歩いただろうか、一行はついに、港町ポートセルミに到着した。
ミ「こんなに遠いなんて、予想外でしたぁ~」
サ「ははは。もはやこのまま歩いて違う大陸まで行けそうだよ」戦闘だけでなく旅人としてもたくましくなった、と一行は思った。
ポートセルミはとてもにぎわっていた!ムーンペタの比ではない。
大陸間交通の要であるだけでなく、貿易のメッカでもあるらしかった。大勢の人で賑わい、大勢の店が軒を連ねる。店とも言えぬ簡素な屋台はそれ以上にある。
大勢の人が行き交う港町。一行に対して「何者だ?」といぶかしげる者はいなかったが、あれを買え、これはどうだ、と声をかけてくる者は大勢いた。ローレでなくともうっとおしくなってくるものだった。
サ「貿易に長けた町は賞賛されてるけど、その実態がこんな押し売りの嵐なら、てんで興ざめだな。
ムーン?姫は金持ちに見初められるのが宿命ってモンだけど、商売人となんか結婚しないほうがいいぜ?」
ム「ご心配なく」ムーンも商売人たちの熱気に愛想を尽かしていた。
ム「どうせ私は結婚などしないわ」
舶来品に興味はないが、情報収集はしなくてはならない。
町を歩きながら、時にはこちらから声を掛けてもみる。
民「龍だって?そりゃ架空の生きもんだろうよ!」
民「船を手に入れたら、一人前の冒険者じゃな」
民「《風の紋章》?なんかそんなようなのどっかの屋台に大量に売ってたぜ?」
色んな情報が行き交う。かえって混乱するだけのような気がすることもあるが、前進はしているはずだ。
一行はしばし喧噪から離れ、宿屋へ向かうことにした。
休息場を確保したいし、最も無難な情報を得られるのではないかと期待して。
宿「大陸を渡りたいって?
そりゃあの一番大きな貿易船に乗り込むが良いですよ。
しかしカネがかかります。1人10万ゴールドとか、そんなんだったかな」
一行「10万ゴールド!?」
宿「ハハハ!貿易船ですからね。金持ちの商売人しか乗せないのでしょうなぁ」
ロ「貯められないこともないが…」
サ「時間が掛かりすぎるな(汗)」
ロ「また護衛を名乗ってみるってのはどうだろうか?」
サ「そりゃ名案だ!
上手くいきゃ、カネ払うどころかお給金貰って海を渡れるよ!」
ミ「おぉ~!サスガですぅローレ様!」
一行は再び、船着き場に近づいた。大小さまざまな船が着けているが、一番大きな船を目指す。
噂の一番大きな船では、忙しなく積み荷の運び出しが行われていた。
員「ほら、そこどけよ!」
商人ではない荒くれな乗組員も多数いると思われる。
ロ「持ち主は誰なんだろうな?」
キョロキョロしていると、住所を示す簡易立札のようなものがしつらえられているのを見つけた。
豪華商船ワンダーランド号
持ち主:王王王
出航予定日:〇月×日
サ「王王王!?どんだけの有力者なんだよ!?」
?「ハハ! おうわんわん アルよ!」
なんと、それこそ王様のような豊かな恰幅の、ギラギラな貴族服をまとった中年男性が立札にもたれかかって気取っていた。
サ「あなたが、船の持ち主?
どこかの王様なのですか!?」
ワ「いいや、王様じゃないアル。貴族アルよ。
おうわんわん アル。
ワンさんと呼ぶアルよ」
ミ「船に、乗せていただけま…」
ローレは咄嗟にミユキの口を封じた。
ロ「僕たちは商人向けの護衛をやっています。
何かと物騒な航海でしょう。護衛の必要があるのでは?」
ワ「護衛?必要ないアル」
ミ「え?どっち?(汗)」
ワ「必要ないアル。腐るほどいるアルよ。
じゃぁ、バイバーイ」
わんわんとやらは、船に乗り去っていってしまった。
ロ「こっちから払い下げだ!」
ローレが一番嫌いなタイプの人間だった。でもそれを表に出さないように努力した。
サ「まぁまぁ。ああいうのと上手くやっていくことも、必要ってモンだよ」
ロ「しかしニーズがないと言われた」
ム「どうしたもんかしらねぇ」
サ「次の出航は数日先だろう?
なにか機会を伺うしかないな」
『転生したらローレシアのメイドさんだった件』