CHAPTER 23
3日後、貿易を終えた船はポートセルミの港を出航した。
一行の望みどおり、東の大陸へと向かう船だった。
もちろん、大富豪ワンの護衛として4人も船に乗り込むことに成功した。
ワンはすっかり気丈を取り戻している。
ワ「いやー!君たち強かったアルよ。
特にあの覇王斬ていうやつ、すごかったアルね!
君、名のある戦士アルか?」
ロ「いえ、名もなき用心棒です。ならず者ですから、身分など聞かないでください」
ワ「そうかそうか。命を助けてもらえれば、身分もくそもないアル」
ミ「ないアルって、ないの?あるの?」
ム「護衛って、ずっとあなたに付き添っていればよろしくて?」
ワ「いや、その必要はないアル。ずっといたらうっとおしいアルよ。
何かあったらすぐ駆けつけること!
それまでは客室(キャビン)かどっかでのんびりしててくれアル」
船は時々、海の魔物の襲来を受けるのだった。
メドーサボールやポイズンキッスが船を沈めようと攪乱してきた。
ローレたちは率先して戦い、ワンだけでなく船全体を勇ましく守ってみせた。
護衛のローレたちは、そう忙しいものではなかった。
一行はキャビンにばかりは留まっておれず、船の中をあちこち散策してみた。大きな船の中にはバーがあったりポーカーテーブルがあったりした。自国の暮らしでは見ることのないものを、たくさん見ては驚くのだった。彼らは旅そのものをなんとなしに楽しんでいた。
波の静かなときは、甲板で風を浴びながらくつろぐ余裕もあった。
サ「いやー、あの時の君の覇王斬、ホントにすごかったね!」
ロ「いやぁ、あれは半分ハッタリだろう。
君が上手く演出してくれたってだけだよ」
サ「でも君の怪力や威厳がなきゃ、上手くいかないんだよあの作戦は。
僕がこの華奢な腕でヘラヘラしながらやったって、サマになんないさ」
ロ「魔物の戦闘能力まで、瞬時に見抜いたのか?」
サ「いや、勝てる確証があったわけじゃない。
2つの可能性を考えていた。
勝てれば勝つで、それでいい。
勝てない相手であったとしても、なんとしても目的は達成することを考えた」
ロ「目的って?」
サ「ほら、僕らは船に乗って大陸に行きたいんだ。
失礼な話、ワンワンのことなんてどうだっていい。
もしナイトリッチとやらに勝てないとしても、僕らの魅力をワンワンや他の富豪に見せつけることは欠かせなかった。
だから一番ハデな戦闘を演出しようと考えた。
ロ「それで、オノと《ルカニ》と、『覇王斬!』なんて大層な掛け声ってわけか」
サ「そう。面白かったろ?」
ロ「面白かったよ。
こんなこと言っていいのかわからないが、戦闘が楽しかった。
そんなの今まで感じたことがなかった。でも君の作戦は面白い。色んな意味で」
サ「はは!そう言ってくれて嬉しいよ」
ロ「君は国でも、こんなふうに指揮を執っていたのか?」
サ「いいや?サマルトリアじゃ僕はまだ突撃兵の一人さ」
ロ「本当に?なぜ指揮しない!?」
サ「僕が何か思いついても、誰もそれを採用しちゃくれない。
いつも何か戦略を考えるよ。面白いこと思いつくこともある。
提案してみることもあったけど、大人は誰も僕の意見なんて聞きゃしなかった」
ロ「器用貧乏の軟弱者だって、思い込んでるからか」
サ「そういうこと」サマルはニコっと笑った。
サ「君たちは、君は…
僕の作戦を邪険にせず聞き入れてくれる。
僕を器用貧乏だと言わずに、優秀だと褒めてくれる。
だから僕は、大胆に戦略を思いつくことが出来るんだ」
ロ「水を得た魚だな!本当は将軍の器だよ、君は」
サ「でもさ?」
ロ「うん?」
サ「戦闘の戦略に思考を凝らすことは、良いことかどうかわからないよ」
ロ「どうして?」
サ「戦闘の戦略に思考を凝らすことは…
人間をチェスの駒のように扱ってるような気がして、罪悪感や自己嫌悪を感じることもある」
ロ「………。
わかる気がする。
僕は、やがて大人になって、大勢の兵士に指示を出す自分が想像できなかった。
戦闘に限った話じゃない。仕事だろうが政治だろうが、同じことだ。人に指示を出す大人になることが、憂鬱だった」
サ「あぁ」
ロ「…!そうだ!
僕がなぜ唐突に魔王討伐の旅に出たか、まだ話してなかったろ?」
サ「そうだな」
ロ「いや、今話した通りだけどさ。
やがて自分が王になり、戦や政治や事業で人に指図するのが嫌だったんだ。
つまり、王という地位を継ぎたくないと思った。
でも王位継承を放棄するなんてただのデクの坊だろ?そんなの認められっこないし、父上の顔に泥を塗りたくもない。
じゃぁ魔王討伐って口実で城を出るのはどうか?って思ったんだ。
父上にはすべて話したよ。わかってくれた。…よくわからなかったのかもしれないが、城に残してもロクなことにならないとわかったんだろう。だから外に出してくれた」
サ「そうか」
今日の海の波以上に、二人の心は鎮まりかえっていた。
『転生したらローレシアのメイドさんだった件』