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CHAPTER 26

下巻 ―善と悪―



CHAPTER 26


《月の紋章》を手に入れ、充分な休息を果たした一行は、今度は東へと歩を進めた。

新しい大陸は、やはり西の大陸とは違う魔物たちが徘徊しているのだった。

青い体毛のヤギを見たときには一同軽く驚きもした。ゴートドンだ。集団で現れては《ボミオス》を唱えてこちらのすばやさを下げてくる。動けなくなったところをじわりじわりと痛めつけてくる。妙な戦法もあるものだ。

つちわらしはいつも長い舌を出している奇妙な小鬼だ。人間の子供かと勘違いして話しかけると、急に攻撃してくる。いつもヘラヘラとしており、悪意があるのかどうかもよくわからない。長い舌でなめまわしてくるので、ムーンはこいつを特に毛嫌いする。「遠隔攻撃できる魔法使いで良かったわ!」と安堵している。ミユキはいつもよりもさらにさらに遠くから見守っている。

荒くれのような、盗賊のような格好をしているのはぬすっとウサギだ。こちらのアイテムを盗もうとするので油断がおけないが、盗むのはあくまで木の実や食料だったりする。《いのちの木の実》や《力の種》の使いどころは悩ましいが、こいつが盗もうとするのを知ってからはすぐ使うことにした。


サマンオサの神父が言っていた町は、やがて見えてくるのだった。

ここはアモール。町というよりは村だろうか。

村の奥に滝が流れる、観光地のような風光明媚な村だった。

村に入っても誰も話しかけてきたりはしない。滝の音がさわさわと、絶え間なくこの町の観光ガイドをしているだけだった。

サ「おぉ、なんか観光旅行に来たような気分だな!」

一行は同意した。

ム「…で、ここには何をしに来たんだっけ?」

サ「サマンオサが騒がしいから避難しようってことだったが…その目的だったら海辺の教会でも事足りたな」

ロ「別にすべての町で収穫を得なきゃならないわけでもなかろう」

サ「その心構えは大切だな!はは」

ミ「なんだかいい匂いがしますわ、この村」


一行はしばらく、村の中を歩いて回った。一行の訪れに気づいてじっと眺める者もいたが、特に表情を変える様子もなかった。部外者が全く来ないわけでもないようだ。

しかしやはり、どこにしたって奇妙な何かを見つけるものである。

村の奥の滝まで行ってみると…

その滝つぼではなんと、老婆が水浴びをしていた!

婆「おぉぉぉぉぉ~ 癒されるのぅ」

サ「大丈夫かあの婆さん!」老人とはいえ女性だ。サマルはうかつに近寄れない。

ひょっとして温泉なのか?と思って水に手を浸してみるが、冷たい水だった。水浴びが気持ちいいという暑い気候でもないのだ。

ムーンは察して自分が老婆に近づいていった。

ム「お婆さん、水は冷たいですがお体に障りませんか?」

婆「おぉぉぉぉぉ~ 旅のもんか?

 なぁに、アンタも浸かっていけばわかるってもんじゃぁ」

ム「あ、はぁ(汗)」ムーンにそれははばかられるのであった。

サ「次にいこう。何か強力な武器が売ってたりはしないかなぁ?

 あ、お婆さん、武器屋はどちらです?」

婆「おぉぉぉぉぉ~」

サ「ダメだコリャ」


一行はなおも適当に歩いた。

崖には小さな洞穴が掘られていた。木の扉がしつらえられ、何やら古ぼけた看板が掲げられている。褪せて汚れて文字は見えない。何やらわからないが、入ってみることにした。

キィィィィ、パタン。

木「おう、旅行者か?」

店主の木こりはまぶしそうに目を細めながら、しかし敵意もなく言った。

見たところ、ヤリやオノなどがまばらに並んでいる。

ロ「ここは武器屋ですか?」

木「いいや、よろず屋だ。

 こんな田舎に強力な武器なんて売ってるわけがあんめぇ」

サ「でも品書きには《バトルアックス》なんて書いてあるじゃないですか! 大した武器ですよ、これは」

木「がははは!

 そりゃ仕事用のオノをオラが改良しただけだっぺ!

 近頃の若いもんはよぉ、野良仕事のオノでも魔物と戦えるってことに気づかねぇ。

 だからわかりやすく《バトルアックス》って名前付けて売んのよ。がははは!」

木こりは自慢気に、お手製の改造アックスを見せびらかしてきた。

一行「あはははは(汗)」


サ「あれ?これは何です?

 《アモールの水》って書いてある。他じゃ見ない品だなぁ」

木「そりゃうちの村の名産品だよ。

 そこの滝の水を小瓶に詰めたもんさぁ」

サ「いやぁおじさん、こう見えて商魂たくましいなぁ(汗)」

ム「しかも50ゴールドって、結構なお値段」

ロ「行こうか」ローレは退店を促した。「そうだな」サマルは同意する。

3人はそろそろと洞穴を出ようとするが、ミユキは一人、その小瓶を両手に抱えてじっとしていた。そして、

ミ「ちょっと待って!

 サマル様、このお水、2つ3つ買っていきませんか?」

サ「はは!みんなギャンブルが好きになってきたなぁ。

 ポートセルミで僕がレプリカの紋章なんて買ってしまうからだろうけど。

 まぁいいんじゃない?1つ50ゴールドばかしさ」

サマルは気前よく5つ、《アモールの水》とやらを購入した。

サ「あ、おじさんコレ飲めるの?」

木「もっちろん」


他にやることはないと見え、一行はアモールの村を出ることにした。

村人の情報によると、さらに東に国があるという。「探しものならそこだろう」と言うので、そこを目指してみることにした。

そろそろ新しい武器が欲しいところだが、サマンオサ、アモールと武器の更新は叶わなかった。

魔物の圧力が強く、戦闘1つ1つで疲労を感じがちになっていた。

サ「はぁ、はぁ、なんとか切り抜けたな。

 ちょっとノド渇いちゃったんだけどさ、さっき買った水、1つ飲んでみてもいい?」

ミ「はい、よろしいと思いますぅ」

サマルは《アモールの水》を飲んだ。

サ「ぷはー、美味い!

 …ってこともねぇなぁ。普通の水だよあははは!」

と思った瞬間…

サマルのHPが100ポイント回復した!

一行「え!!??」

一行は驚いた!!

サ「もしや…?」

そのもしやだった。《アモールの水》は回復アイテムなのであった。

ム「アモールのお婆さんが滝つぼに浸かっていたのって、理に適っていたのね!」

一同驚きである!

サ「なんだぁ、もっとたくさん買ってくれば良かったなぁ!」

ロ「もう軽はずみに飲まないでくれよ」

ミ「回復ならわたくしががんばりますから大丈夫です!」

一行は妙な発見をするのだった。



『転生したらローレシアのメイドさんだった件』


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