CHAPTER 28
どれだけ広いのか、エンドールの町は規模感もよくわからない。ワクワクする側面もあるが、やはり臭い汚いで頭が痛い…。
武器屋から離れ、今度は宿屋を探した。こんな町で休息がはかどるとは思えないが、体力が枯渇しているのも実情だ。
迷路のような路地を歩いていると、先ほどのようなインチキ聖者に何度も声を掛けられるのだった。
「清め」ではなく、マッサージをしてしんぜようだとか、一方的に肩を揉んできてお金を要求してくるような者もいた。
ロ「大勢いるんだな、インチキ聖者が」
すると宿屋の看板が見えたが、やはり宿屋とは言えない代物だった。
御座を敷いただけの、吹きさらしの寝床だ。
値段を聞くと10ゴールドだと言う。これも喜捨をせびるのと大差ない商売に思えた…。
宿「しかし道端で眠るよりはマシだぜ!わっはっは!」と言われると、それは否定できないようだった。
薄っぺらい御座に横になったところで、なかなか眠れないのだった。
サマルとローレはまた、彼らにしかわからないような談義を始めた。
サ「ところで君、オノさばきが上手すぎやしないか?」
ロ「そうかな?」
サ「城にはオノの師匠もいたのか?」
ロ「いや、戦闘としてのオノの扱いを特段学んだ記憶はないな」
サ「本当かよ!それであのしなやかさや迫力はないぜ!」
ロ「考えられることと言えば…
久しぶりに思い出したけど、僕は幼少の頃、城の裏の野良仕事をよく手伝っていた」
サ「偉いもんだな!」
ロ「偉いっていうか、僕にとっては遊びのつもりだったと思う。
『遊ぶ』ということのあまり許されない身分だろ?
野良仕事ってのは半分、自然と戯れて遊んでるようなものだ。そこでナタだのクワだのノコギリだの、色々扱ったのを記憶している。
薪木があり、ナタがあれば、『1日何本割れるか?』ってムキになりたくもなる。
そうして何も考えずにバカみたいに薪割りしたりしていたよ。ははは。懐かしいな」
サ「子供の頃から君はローレだったのか!」
ロ「…そうだ。
剣の師に剣を学びだした頃、『君はやたら手首が柔らかいな!』と驚かれたな。
『手首が強いうえに柔らかい』と。自分ではよくわからなかったけどね。
今思えば、草刈りだのなんだの、野良仕事を通していろんな刃物をいじったからかもしれないな」
サ「ある意味で、人一倍武器の修行をしてきた…のか!」
ロ「そうだ…。
あの野良仕事遊びには色んな意義があったのかもしれない。
無愛想な僕だろ?無愛想な僕が、それなりに城の大人たちから愛情を得たのは、よく野良遊びをしていたからのような気がするよ。僕にとっては『遊び』や『息抜き』だが、大人たちから見て『雑用を手伝っている』と見えたんだろう」
サ「無愛想でもないと思うぜ?」
ロ「ははは。王子として、社交もそれなりに努力してきたつもりだったけどね。君を見てると自分が無愛想だったと思うよ」
サ「ははは!スマンね!」
しぶしぶ一夜を明かしたが、やはり体力はあまり回復していないのだった…
宿屋の店主に怒っても埒が明かないことを察し、口論に体力を消耗しないうちにさっさと出てくる。
何かを求めてさらに歩くと、食堂の前に立派な鎧を着た戦士風情の人物を見かけた。
サ「おや?冒険者ですか?」
戦「あぁ、君らも冒険者か!」
一行は少しホッとした。まさか冒険者がタカってくることはなかろう。
サ「もうクタクタなんですが、宿屋に泊まってもさらにくたびれてしまってね。どうにかならないもんですかねぇ?」
戦「癒しを求めているなら、東側にある川に行くといいぞ。
川に身を浸すと、聖なる清めの効果で体力が回復するんだ」
ロ「アモールの滝と同じことかな?」
サ「行ってみよう。藁にもすがる、だがね(汗)」
迷路の路地を東に東に進むと、やがて大きな川にぶちあたった。
川の堤防は広くとられており、噂の癒しを求めて川へと訪れる人々をゆとりを持って受け入れている。
堤防の様子を眺めていると、座り込んで動かない人々の数がさらに多いように見えた。
ミ「元気がないから、みんな川に来るのでしょうか?」
その可能性もあるが、むしろ逆の可能性もある。とサマルは見ていた。この町はどうもおかしい。
『転生したらローレシアのメイドさんだった件』