CHAPTER 31
エンドールの者たちの言葉などアテにならない感はあるが、北東には王国があるという話を聞いた。
まともな王国などサマルトリア以来だ。どのような政治が行われ、魔王に対して他国が何を考えているか、王子王女は興味をそそられた。
うろつく魔物たちの様相はまたも変化している。
ギズモは灰色の小さな雲のようなモンスターだ。集団で現れて、不良のような目つきでふわふわと浮いている。高い素早さから先制攻撃を仕掛けてきたが、《ギラ》にすぎない。あまり手強くはないな、と安堵したのも束の間、同じ人間に寄ってたかって《ギラ》を撃ってくる!標的にされた者は1ターンで死にかねず、懸命に防御をして耐え忍ぶのだった。
遭遇しただけで一行に緊張が走ったのは、てっこうまじんだった。全身を黒い鎧で覆ったいかにも強そうな魔物だ。魔物なのか?人間が襲ってきているようにも見え、その実態はよくわからない。言葉は発さず冷徹な攻撃を仕掛けてくる。
ゾンビマスターもやはり、魔物なのか人間なのかよくわからない。奇妙なお面をかぶって、手には細長いヤリを持つ。ベホイミを唱えてしつこく食らいついてくるので厄介だが、それ以上に厄介なことに、仲間を呼びだすのである!こいつが妙な奇声を発すると、くさった死体やどくどくゾンビがやってきて、いやらしい攻撃を仕掛けてくる。
一行はヨレヨレになりつつも、北東の国を目指して旅をした。
東の大陸の中心地なのだろうか?見えてきた王国はとても大きなものだった。
エンドールとは打って変わって近代的で、頑丈な家が立ち並び人の顔は血の気に満ちている。
兵「バトランドにようこそ!ここは開かれた国です」
入口では兵士が、部外者に対して丁寧にあいさつをするのだった。
城下町は町人と兵士が入り乱れてにぎわっている。心なしか兵士の数が多いように見える。
兵士のようで兵士でない…。兵士なら町で呑気に何をしているのか?よくわからない。
一行の疲れを癒す、たくさんの食堂や珍しい食べ物も並んでいた。
王城に訪れる前に、まずは宿屋で長旅の疲れを癒すことにした。
宿屋の主人は気さくに一行に話しかけてきた。
宿「実力者の冒険者だろう?
武器や防具はまだ買わないほうがいいよ。王様に謁見してからだ」
サ「え?どういうことですか?」
宿「魔王退治の戦隊に加わるつもりなんだろう?
実力を見せつけて採用されれば、いい武器が配布されるはずさ。それがこの国の仕組みってもんで」
ロ「やはりこの国も魔王と戦っているのか。国って大変だな」ローレは支配者目線で暮らしを想像するのだった。
武器の新調に興味があったが、宿屋の店主の言うことを信じてみることにした。武器屋を覗かずに城を目指す。
道すがら、一行は悲鳴を耳にした!
女「きゃー!」
ロ「なんだ!?」一行は声のするほうへ駆けつける。
銀行強盗だ!両替商に突入して大金を盗もうと企む荒くれがいた!
荒くれは女性の店員を人質にとり、目撃者たちを威嚇しながら逃亡を計ろうとしている!
火薬玉を投げつけて煙に巻こうとしたその瞬間、ローレは素早く突進した!
荒くれと女性の目前に迫ると、自慢の跳躍で自慢のオノを勢いよく振り上げる!
荒くれは驚きおののき、思わず女性からは手を離し逃げの姿勢をとった。
サ「バカ!建物を壊す気か!!」とサマルも焦ったが、ローレは冷静だった。
振り上げたオノは威嚇にすぎず、荒くれの首元に逆の手で手刀を喰らわした。その一発で、荒くれは倒れ込んで泡を吹いた。
ローレは店も町もまるで壊さなかった。
人質にされた女性だけは、ローレの振りかぶりを見てさらに恐怖に震えていた。それに気づいたローレは、「あ、ごめんなさい」と普段の穏やかな言葉を見せた。それ以上は女性にどうしてよいかわからずドギマギしている。
ムーンとミユキが駆けつけて女性を介抱する。「もう大丈夫だからね。あのお兄さんは怖くないからね」と。
サ「やるなぁ!」サマルはローレに駆け寄ってハイタッチをした。
ロ「君から学んだものが多いよ」ローレははにかんだ。
ローレの挙動に感心した者が、もう1人いた。
髪の長い、立派な鎧を着た大柄の男が、店の入口からその様子を見ていた。
?「ほう、冒険者か?」
一行はその声に振り返る。
民「スウォン様!!」店にいた者たちはひれ伏すように彼に敬意を示した。
ス「そなたら、私の家来にならぬか?」
一行「え!!??」
ス「来たまえ」
スウォンはそれだけ言うと髪をひるがえし、かつかつと城のほうへ歩いていった。
一行は、よくわからないが着いていくことにした。
『転生したらローレシアのメイドさんだった件』