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CHAPTER 44

CHAPTER 44


数十分も下り、やがて谷の合間に築かれた絶景のような集落に辿りついた。

崖の壁をくりぬいて住居をこしらえている。すると崖の上からは家々はほぼ見えない。住人に案内してもらわなければ、絶対に辿りつくことは出来なかっただろう。

集落に着くと、男の子は一番手近にいたおばさんに、一行を引き合わすのだった。

プ「大丈夫だよ。悪い人じゃないみたい!」

女「おやまぁ…」おばさんは呆気にとられている。

見知らぬ者の来訪を喜んではいないが、抵抗はしないのだった。ここまで来られたら私が抵抗しても仕方ない、と悟っているのだった。

女「旅の人、なのですね?」

サ「はい。魔王討伐の旅をしています。その手がかりになるものを求めてさまよっています」

おばさんは少し考えた。そして「いらっしゃい」と言った。言葉少なに一行を連れ立ち、少し歩いて一つの洞窟住居の中に招き入れた。


奥では、年老いた女性がゆっくりと機織りをしていた。

女「マーニャさん。旅の人ですって。会ってやってはくれませんか」

マ「おやおや、これは困ったもんだねぇ!またイタズラ小僧たちのしわざかい?ほほほ」

困ったもんだと言いながら、呑気に微笑んでいた。一行はほっとするのだった。

サ「こんにちは!僕はサマルと言います。魔王討伐の旅の途中です。

 おばあさんは、村長さんですか?」

マ「いいえ、一介の老婆ですよぉ。機織りをしながら暮らしとります」

老婆はゆっくりしゃべった。

サ「村長さんなど、お会いすることはできませんか?」

マ「ほほほ。村長に通すのもえぇがの、食事と寝床が欲しいのではないですかい?

 それなら私で事足りる」優しく微笑んでいる。

ム「まずはこのお婆さんにお世話になったほうが良いんじゃない?」ムーンは提案した。

サ「そうだな」サマルは納得する。

サ「お婆さん、えぇと、マーニャさんでしたっけ。

 僕らを少し、休ませてもらっても良いですか?」

マ「えぇえぇ。大したもてなしは出来ませんがねぇ」

そう言うと機織り機から立ち上がり、食事の用意などしてくれるのだった。

連れ立ってくれた少年たちは、マーニャの家に寝そべってお人形で遊んでいる。

サ「君たち、この家の子だったのか」

プ「ううん。違うよ」と素っ気なく答え、しかしそんなことはどうでもいいと言わんばかりに、くつろいで遊んでいた。


一行はそわそわしながら食事が出てくるのを待った。

老婆が座っていた機織り機には、作りかけの立派な織物がきらめいている。よく見れば床にも織物が敷いてあり、これも手製のものであると思われた。

ミ「すごいですぅ!辺鄙な村とは思えないですぅ!」ミユキは目をキラキラさせている。

やがて老婆は食事をこしらえて戻ってきた。さっきの子供たちはその配膳をさらりと手伝うのだった。

ミユキは「ありがとう♪」と女の子の頭をなでた。女の子はうれしそうにはにかんだ。

幾つかのお皿が地べたに並べられた。ダイニングテーブルというものはなかった。

マ「さぁさ、お食べください」と一行に促し、自分はまた織機に戻ろうとした。

サ「マーニャさん、少しお話を伺っても良いですか?」サマルは老婆を呼び止めた。

マ「おや?私で良いんですかい。

 いや、しかしもう日も暮れた。

 明日また、お話しましょうよ。谷を案内しますからね」

サ「ありがとうございます!」

マ「勝手に谷を歩かんほうがいい。あなたたちを許した人と一緒がいい。

 あなたたちを怖がる人もおるからね」

一行は、皆まで言うなと理解した。


夜が明ける。朝は少し冷えた。自慢の織物が役立ちそうだ。

霞が晴れると、空はさわやかな晴天だった。そして今日も谷を風が吹き抜けている。

老婆は約束通り、一行を連れ立って谷を奥へと歩いていった。

人はいる。皆もう起きて、のんびりと営みを開始している。

すれ違う人は一行を物珍しそうに見て、しかし物言わず見守るようだった。

こちらが挨拶すれば会釈を返すが、向こうから言い寄ってくる者はなかった。中にはおびえた顔をする者もいた。怒った顔をする者もいた。

洞窟住居はポコポコと幾つもあり、それぞれに人が住んでいる。店のような穴もある。

老婆は一つの穴に入っていった。


なんとそこには、機織り機が幾つも並んでいた!そして幾人かの女性が機織りをしている。

一行の来訪に女性たちは驚いたが、しかし静かにしているのだった。

老婆は「赤い糸を2つおくんなまし」と女性の一人に話しかけた。

ミ「お婆さま、ここは機織りが名物なのですね?」

マ「ほほほ。そうさね。

 やることもないもんだから、機織りばっかりしていますよ」

機織りばかりではない。他の種類の裁縫をしている者もいた。

裁縫に関する道具が、この穴には数多く散乱していた。

「また来るよ」と挨拶すると、老婆はこの穴を出た。

さらに歩く。子供たちとすれ違うこともある。子供たちは、身を隠したり、興味津々にこちらを見つめたり、反応が様々だ。



『転生したらローレシアのメイドさんだった件』


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