CHAPTER 50
一行は示された通り、集落の端っこまで歩いた。少し褪せた水色の家がある。
サ「ごめんくださーい。
…じゃなかった!
失礼いたします。王様への謁見は許されますでしょうか?」
侍女らしき女性が顔を出した。
女「うふふ。良いのですよ。
ごめんくださーいと気軽に入れる場所であるために、端っこの普通の建物なのですから」
侍女も優しい笑顔で微笑むのだった。
女「でもごめんなさい。
せっかくお越しくださったのですが、今は王様はお留守なのです。
まったく、どこに行ってしまったのかしら!
そう遠くには行っていないはずなのですが…」
ロ「なんてのんきな城なんだ…
これで平和は保たれるのですか?」
女「うふふ。平和だから王様がのんきでいられるのかもしれません。
いや、王様がのんきだから平和なのかな?どっちでしょう!」
サ「ふわふわとした城だな…!」
ム「こんなお城って初めて見たわ!本の中でも、童話の中でも見たことがない…」
女「お客様方、お腹がすいていらっしゃるはずです。
お食事の用意がされておりますから、向かいの家にどうぞ」
向かいにあるのも、同じ様な大きさの同じような家である。
家の中には大きな食卓があり、すでに料理が並べられていた。大人数用のダイニング室なのだろうか。
ゾ「やぁ、お待ちしていました!先ほどのゾラックですよ。
おいてけぼりにしてしまってすみませんでしたね。
料理に飾るハーブがないとのことで、摘んできたのです。
まずは料理で英気を養って下さい。積もる話はそれからでしょう」
サ「ど、どうも」
一行はくつろぎと食事を頂くことにした。食べきれないほどのご馳走だが、内容はとてもヘルシーだ。野菜を使ったおかずが多く、味付けは薄い。
ゾ「味が薄ければ調味料はありますからね」とゾラックは添えたが、薄い味のまま食べるべきのような気がして、一行はそのまま食べた。食べれないことはない。よく噛めば味が出てくる。優しい味の美味しい料理だった。
女「お邪魔します」食べている途中、誰かがやってきた。
女「初めまして皆さま。わたくしセレシアと申します。
王様の代わりにわたくしが、お話相手でもよろしいでしょうか?」
紫色の長い髪を真ん中で分けた、美しい女性だった。
ミ「はじめまして!
セレシアさんって、霊能者のセレシアさんですか?」
セ「あはは!そうですが、霊能者なんて呼ばないでください。
そういう形容詞が自分に合っているとは思えないんです」
たしかに霊能者というイメージではない。とミユキは思った。完全に、アニメに出てくる女神である。
セ「お話がしたいのですが、その前に。
皆さんの傷を癒してさしあげましょう。
《ベホマズン》」
セレシアは、大した気合も入れずにすさまじい回復呪文を唱えた!一行のHPは全快した!
一行「おぉぉぉー!!??」
セ「それでは、お話しましょうか」
ム「…私たち、この地に何をしに来たんでしたっけ?」
セ「あははは!面白いことをおっしゃいます。
それはわたくしたちにわかることではなく、そのお話に耳を傾けに来たのですが…」
サ「でもセレシアさんは実はそれが透視できている、と…」
セ「そうですね。ですが、きちんと対話すべきだと思っています。
わたくしたちがあなた方の望むものを一方的に次々と差し出すのは、気味の悪いことでしょう」
ロ「目的は主に2つです。
1つは、龍を見つけること。…龍の在り処はわかっていますが、出会う手段がわかりません。
2つ目は、紋章を見つけること。えっと、最後は『命の紋章』かな。
セレシアさんが霊能者なら、1つ目の目的について伺うのが適していると思うのですが?」
セ「そうですね。回答が難しい問いです。
それぞれが然るべき時に、まぶたの裏で龍と出会うでしょう。そして啓示を受けるでしょう。
それがいつであるか、あらかじめ決まったことではなく、わたくしが示せるものでもないのです」
ロ「結局、謎に包まれたままか…」
セ「1つ言えるのは、大きな選択に差し掛かった時でしょうね」
サ「 『風の谷で生きよ』だ!」
セ「そうですね。風の谷の村長さんにおいては、そのときでした」
ミ「霊能者のセレシア様。
ローレ様たちは、魔王に打ち勝つのですか?」
セ「霊能者とは、未来を予知できる者ではないのです。
未来は、まだ決まっていません。
あなた方は、魔王に勝つかもしれないし負けるかもしれない。それ以外かもしれない。
それは神とてわからないのです。まだ起きていないことですから。
私は、霊能者は、人が最善の結果を得られるように、的確なアドバイスをすることが役目です。予知が出来るのではなく、確率の高いアイデアを示します。
または、その人の成長のためになるアイデアを示します」
ロ「僕たちは、どうすればよいのですか?」
セ「今まだ、あなた方に示すべき事象がありません。
今は、私がそのような力の持ち主であり、あなた方の役に立とうとする者であることを自己紹介するまでです」
ム「もう1つアドアイスしてほしいことを思いつきました。
王様は今、どちらにおられるのでしょう?
私たち、王様にお会いして帰るべきだと思われます」
セ「あははは!その答えについて、わたくしは今すぐにでもお話したくてたまりません!!
しかし、話すことが許されていないのです。どうかお許しください」
一行「え??」
セ「これは1つの試練だと思ってください。
最後のピース、《命の紋章》を手に入れるための。
《命の紋章》は王様が持っています。
この集落を歩いて、王様を探してくださいまし。
王様は、この国の民の命を守るために懸命に働いています。それがヒントです」
サ「王様探しか!」
セ「この集落を歩いてください。人々はまた、あなた方に何か面白い話を聞かせてくれるでしょう。そしてその話もまた、誰が王様であるかを考えるヒントになりそうです」
サ「あ、はぁ」
まったく予想外の展開だ!一行は思うのだった。
『転生したらローレシアのメイドさんだった件』