CHAPTER 56
王様の促しで、一行は再び王の居城に向かうことになった。
今会話した人々が、気さくにこちらに手を振ってくる。「ベッポさんこんにちは♪」と微笑んでいる。
サ「…『ベッポさん』!?なぜみんな『王様』と呼ばないのです?」
べ「うん?ワシが『王様!』だなどと呼ばれたくないからじゃ」
ロ「王とは、王様とは、権威を示す言葉…」
べ「そうじゃ。ワシは国の代表を務めるが、自分に特権があるとは思うとらん」
ム「皆、王と呼ばれたくて王になる…権威者になりたくて権威者になる…」
ベッポは思い立ったように立ち止まると、揺り椅子で手芸する老婆の家に寄った。
べ「やよいちゃん、おるかのう?」
や「はいはい。おりますよぉ」
ベ「《命の紋章》、在庫あるかのう?さっき鼻水かんでもうた」
サ「ぎゃー!!」
や「もうベッポ爺さんたら、刺激的なボケはおよしなさんな。
お客様は笑えませんよ!」
やよいちゃんとやらは、新しい《命の紋章》を授けてくれた。
サ「こんなの、誰かに届けさせればいいのに?」
ベ「こんなの、誰かに届けさせないで自分で取りに行けばいいのに、じゃ」
ム「王様は、こうした指導者の哲学を誰に学んだのですか?」
べ「うん?自分で思いついた」
べ「ワシも若いころ旅をした。腐敗した祖国が嫌でな。
誠実な王や長のいる町で暮らしたかった。
そしてあちこち町を渡ったが、どこにも誠実な王などいなかった。
ワシは『王ならこうすればいいのに』とあれこれ考えたが、誰も同じ考えはしとらんかった。
そうしてここも違う、そこも違うとさまよってるうちに、テロスに辿りついた」
サ「王様が来た頃は、洞窟に魔物はいなかったのですか?」
べ「いいや?戦ってきたぞ。ワシ、武闘家のレベル99じゃ」
一行「えーーーー!!!!」
サ「それなら魔王も倒せるじゃないですか!」
べ「そういう問題ではないんじゃよ。
そして、武力で問題を解決することをワシは望まなかった。
じゃから武力の役に立たない国に住んどる」
サ「まさしく宝の持ち腐れ(笑)」
べ「そうでもないがの。ほほ♪」
ほどなく一行は、城…もといベッポの家まで戻ってきた。
しかしベッポは自分の家には入らず、向かいの家に入った。
べ「セレシア、おるかの?」
セ「はい、お待ちしておりますとも」
さっきのアニメの女神のような美しい女性は、皿を洗いながらまだここで待機していた。
ベ「おぬしも話をしてやったらどうじゃ?」
セ「先ほどお話いたしましたよ」
ベ「いいや足りないと見える。どこから来たのか、素性を話したか?」
セ「あはは!素性というほどのヒミツもありませんわ」
サ「ここの民の多くは外から来たんだよ、という話ですか?」
べ「ほっほっほ、察しが良いのぅ」
セ「では」彼女は皿洗いの手を止めて食卓についた。
セ「私は、グビアナという城の出身者です」
サ「知ってます!砂漠の城でしょう?」
セ「そうです。
私はグビアナで生まれ育ちましたが、やがてその郷を出ました」
べ「ほれ!まだ秘密にしてることがあるじゃろが!」
セ「あはは!そう急かさないでくださいな。
はい。私はグビアナの王族の娘でした。
やがては城主を継がなければならない身でしたが、それが嫌で家出をしました」
ロ「国が、堕落していたからですか?」
セ「そうです。
最初は政治によって国を建て直そうとも思いましたが、若かりし頃いろいろなことを考えて、『指導者の政策でどうにかなるものではない』と感じました。何かルールを作っても、そのルールをすり抜けて不正を働こうとするだけ。ではルールを100にすればよいのでしょうか?そういう問題ではなさそうです。
そう悟ったとき、わたくしは国を出ました。親に無断で家出をした、親不孝者です。
しかしわたくしは、どこかで役に立ちたいと思いました。そうして行きついたのがここです」
べ「うむ。なかなかようまとまっとる」
セ「あははどうもありがとうございます。
…あまり説明が長いと、ベッポさんは怒るのです」
べ「長い演説など《ザラキ》と変わらんからなぁ」
セ「あはははせめて《ラリホー》と言ってくださいまし」
サ「王様の演説は短か過ぎましたよ!」
べ「あれは演説ではなく『ボケ』じゃ!」
ミ「…あ、そうか!ボケってそういうことでしたか!
『ワシはボケが始まっている』という意味かと思ってましたが、『ボケをかました』という意味だったのですね?」
べ「ほっほっほ!ご名答。
『ボケをかました』という意味じゃが、しかし『ボケが始まっている』と思わせたかった」
サ「うん????」
べ「さすればもう、ワシらがしてやれることは済んだであろう。
今日はこの家で泊っていきなされ。ゆっくり体を休めるとよろしい。
この先どうするかは、休みながら考えればよいな」
ロ「寝床まで、ありがとうございます!」
べ「ワシは向かいにおるから、何かあれば頼ってきなされ。
しかしワシも今宵は鼻くそをほじるのに忙しいからな。くだらん用事では呼ばないでくだされよ?」
『転生したらローレシアのメイドさんだった件』