CHAPTER 6
2人はリリザの町を出て、西へ向かって歩いた。
モンスターはローレシアの周辺よりも少し強いが、王子は一人たくましく善戦するのだった。もちろんミユキの《ホイミ》に助けられながら。
一日をかけて二人は歩いた。そろそろミユキも音を上げるだろう、と王子は思っていたが、ミユキはへこたれないのだった。
ロ「今日も一日歩いたよ。君、ずいぶんたくましいんだな?」
ミ「腕力はありませんけれどもね。体力はあるのです。
なにせお城では一日中、皆さまのお世話に走り回っております。
ローレ様が座学をされるお時間も、隣国の姫とティータイムされるお時間も、わたくしお掃除やお運びしておりますからね」
ロ「そうだな。そういえば君は、隣国の姫と茶会をしているときにはやたらと頻繁に茶だのクッキーだの補給しに来てくれたもんだったな」
ミ「いえ、めっそうもございません(二人が良い仲にならないように場を濁しに行ったのでございますよオホホホホ)」
やがて二人は、サマルトリアの城に到着する。
ローレシアの城と幾分似た城に感じられた。二人は多くの城を知るわけではないが。城下町は質素であまり多くの店施設を持たない。しかし人々は幸せそうに暮らしているのだった。
兵「何者だ!」
最愛の兄弟国で2人を待ち構えていたのは、2本のヤリによる通せんぼであった。
「これはローレシア王子!よくぞおいでになられました」と手厚い歓待を受けたりはしない。なにしろ、《皮のよろい》に《石のオノ》のみすぼらしい格好である。
ロ「ローレ…」と言いかけて王子は口をつむいだ。信じてもらえるわけもない。
ロ「行商の用心棒をやっている者です」リリザの町で言われたことを思い出し、真似てみるのだった。
兵「……。」
兵士はじろりとローレシア王子を見回している。
兵「用心棒か?その粗末な武器で?」
ロ「え?えぇ。腕力がありますので、武器は粗末で充分です。
良い武器が見つかれば、この国にお金を落としていってもいいです」
兵「ふん。大した武器などないがね。金を落とす必要もないが、粗相を落とさないでもらいたい」
兵士の二人はしぶしぶ彼らを通した。
「サマルトリアとはこんな物騒な国だったかな」と王子は思った。しかしそれも、王子という身分で正門をくぐるのと名もなき庶民として訪れるのとで違うのだと察知した。
城の中に入ってしまえば二人を奇異な目で見る者は少ないようだった。元々はおおむね開かれた国であり、来客には慣れている。「番兵が通したなら問題はない」と城の者たちは考えるのだろう。
サマルトリアの王子はどこだろうか?玉座であると察するのが素直ではあるが、そうでないこともありうる。城の者に尋ねてみる。
兵「王子様でしたら今はご留守だったと思いますが。
え?城に会いに行けと言われたのですか?
おかしいなぁ。いや、僕なんて新米でね、王子の様子を逐一知る権利もないのですよ」
要領を得ない。下っ端に尋ねてもだめか。
城を歩いていると、豪華なドレスを着た少女が中庭へと歩み寄るのが見えた。王族の者ではなかろうか。
ミユキは物おじせず、思いついたように少女に掛けよった。
ミ「お姫様、ごきげんうるわしゅう。
私は旅の商人、の娘です。
いいえ、ものを売りつけにきたのではございません。
これは珍しい野草茶です。ささやかな贈り物です」
ミユキは咄嗟の思いつきから、さっき老婆に貰った野草茶を姫に手渡した。
姫「まぁありがとう」やはり姫も人見知りがないようだった。
姫「あら?これってリリザの町で買えるやつじゃない」
ミ「ギクっ!」二人は青ざめたが、幼い姫のおおらかさに救われるのだった。
姫「うふふ。私このお茶お気に入りなのよね。どうもありがとう」
ミ「こ、光栄に存じます」
姫「それで?ブローチの1つなら買ってあげてもよくってよ?」
ミ「いえ、本当にものを売る意思はありません。
それよりも、サマルトリアの王子はどちらにおいででしょうか?謁見は可能でしょうか?」
姫「あぁお兄ちゃん?」
ロ・ミ「おにいちゃん!?」
姫「そうよ。サマルトリアの王子っていったら世界に1人しかいないんだから、私のお兄ちゃんよ。
私はお兄ちゃんの妹のシャロン姫。
お兄ちゃんがどこかって?
…もう!思い出させないでよ!」
ロ「え?」
姫「お兄ちゃんなら冒険に行ったわ。
私も連れてってって言ったんだけど、『お前は小さいからダメだ!』って未だに言うのよ。
もう!面白くないわ」
ロ「それで、兄上はどちらへ?」
姫「勇者の泉の洞窟よ。リリザよりもっと東のほうにあると思うけれど。
護衛を何人か連れていったわ」
ロ「勇者の泉の洞窟…。
ロトの子孫が成人の際に洗礼を受けるという?」
姫「そう、そういうやつよ。詳しいことは知らないけど。
お兄ちゃんまだ成人より3年も早いのに、どうして洗礼の洞窟に行くのかしらね」
ミ「姫のお兄様はどんな人なのですか?」
姫「お兄ちゃん?器用貧乏な人よ!
剣術も魔法も何でもかじるから、結局ぜんぶ中途半端なの。
せめて剣では兵士を圧倒しないと、示しがつかないってものよ。
…ってみんなに笑われてる。
でもお兄ちゃんは頭のいい人よ。魔法だって使えるし。
体の線がちょっと細いだけなのよ」
ロ「ありがとう」ローレシアの王子はシャロン王女に頭を下げた。
ローレシアの王子は城の入口へと引き返した。
ミ「王様に謁見はしないのですか?」
ロ「要らないだろう。どうせまた身分を聞かれて問答に汗をかくだけだ。
サマルトリアの王は僕を知っているが、今はこんな格好だからね」
城を出た二人は、再び東を目指した。勇者の泉の洞窟は遥か東にあるのだ。
リリザの町で一晩の休憩を挟み、さらに東に旅した。
いつの間にかローレシアやリリザ周辺ののどかさは薄れ、空気を不穏に淀ませる靄の中に、勇者の泉の洞窟はあった。自然が時間をかけて造り上げた、鍾乳洞の洞窟であった。
入口には幾人かの兵士たちが手持ち無沙汰でたむろしていた。
サマルトリアの王子は、お共は入口に置いて一人で洞窟の奥へと向かっていったようだ。
兵「なんだね君たちは?」
兵士たちは、いきなりやってきた男女二人をいぶかしげた。「商人と用心棒だ」と答えたが、身なりから信用されていないようだった。しかし、「盗賊など洞窟の中の魔物に襲われてしまえばいい」と、兵士たちは意に介さないようだった。
『転生したらローレシアのメイドさんだった件』
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