CHAPTER 60
次はどこに行けばよいのだろう?
それに関する情報はマーニャにも村長にもなかった。他の民にもなかった。
一行はひとまずヨルッカまで戻ることにする。
途中の宿場に辿りついたときのことだった。
闇市のように御座を敷く盗賊風情の男が、一行に声をかけた。
盗「おや?《やまびこの帽子》を手に入れたのか。すごい猛者だなぁ!
魔法使いの最強アイテムを手に入れたなら、今度は戦士の最強アイテムの番だな!
知ってるか?
ここから南に反れた先には、閉ざされた山間いに大洞窟がある。その一番奥にはとんでもない剣が眠ってるって噂だぜ。
なんでも、古の勇者ロトにゆかりがあるとか…」
ロ「ロトにゆかりのある剣?それはすごいな。行ってみるか」
盗「気を付けたまえ!道中は手ごわいぞ。
《特薬草》を10個は買っていったほうが良いんじゃないか?」
サ「はは、商売が上手いね!間に合ってるよ」
一行は、次の目的地を南の大洞窟とやらに定めた。
その日の夜半のことだった。
珍しく、ローレは遅くまで眠れず、虫の声を聞きながら宿の前で夜空を眺めていた。
自分の部屋からその姿を見つけたミユキは、ローレの元へと降りていった。
ミ「珍しく夜更かしで。どうされたのですか?」
ロ「考え事をしている。らしい」
ミ「らしい」
ロ「何が正しいのかよくわからないなって、思うことが最近多いよ」
ミ「そうですね。しかしミユキは、頭の毛糸がこんがらがるので眠ってしまいます。
でもローレ様たちの旅は、着実に前に進んでおりますよ」
ロ「そうだね。テロスで悟った人々に出会い、《やまびこの帽子》を手にしたことは、この旅がもう終焉に近いことを感じさせるよ」
ミ「…!
そうだ。《やまびこの帽子》と言えば…。ローレ様は昔、少し魔法を使ったことがあると、わたくしは耳にしたことがあります。城でその話をすると、従者たちは『冗談話の1つよ!』と取り合ってくれませんでしたが…」
ロ「……。
知ってたのか?
たしかに僕は、本当は魔法が使えないわけじゃない。
ロトの血を引いているし、城には優秀な先生がいたからね。幼くして魔力を放つ力はあった。
でも魔法ってものを眺めてて、使ってみて、自分なりに思うことがあった。
『人は魔法に頼るべきでない』と。僕は思った。
『人は魔法に酔いしれるべきでない』と僕は思った。
でもそれを先生に言ったら怒られた。だから誰にも言わないことにした。仲間たちにさえ。
大切なのは、気づくプロセスだと思っている。
『知る』ことより『気づく』ことが大切なんだ。それは大抵、体験を必要とする。
サマルやムーンが旅の中で気づくまで、僕は待ち続けている。
…いや、彼らはすでにわかってるのかなとも思う。
それが危ういものであっても、迎合しなきゃならんこともある。
彼らは僕より、柔軟なのかもしれない。
僕はやはり、頭が堅くて不器用なのかもしれない。
あ、ミユキを責める気持ちも卑下する気持ちもないよ?
魔法は魔法でも、回復魔法しか使わないってこだわりは、悪くないことだと思っている」
ミ「はい」ミユキに多くの言葉を返すことはできなかった。
心情を話すと、ローレはすやすやと眠ることが出来た。
『転生したらローレシアのメイドさんだった件』