CHAPTER 61
宿場を南に反れてみると、もはや誰とすれ違うこともないのだった。
先に町があるわけでないから冒険者はおろか商人の往来もない。
道という道すらない、という有り様だったが、山に開いた洞窟というのでそびえる山を目指して歩いた。
山が近付くと辺りは日陰がちになり、眼前は暗い。まるで強大な敵が立ちはだかることを示唆するかのように、山は悠然とそびえ立ち不吉な予感を醸し出した。
やがて目の前に現れたのは、テロスへと続く洞窟によく似た穴であった。
武者震いを一つ、一行は強力な武器をモチベーションに力強く一歩を踏み出す。
中は広く天井も高く、この洞窟が途方もなく広いことを示唆していた。巣食う魔物は、テロスへの洞窟よりもさらに手強い!そんなことがあるのかと唖然とするほどだ。
ケンタラウスは馬の頭に二足歩行の足を持つ、半人半獣の魔物だ。やはり遺伝子操作で生み出されたことが伺える。硬い蹄の備わった両腕を思いきり振り上げて、強烈な打撃攻撃を喰らわせてくる。筋肉の塊かと思えば《ベホイミ》も操り、みるみる仲間を回復してしまう。
がいこつけんしはなんと6本の腕を持つ骸骨の魔物だ。6本の腕すべてに剣を持ち、巧みに捌き分けてこちらを攻撃してくる。さらには《ルカナン》でこちらの守備力を下げてきて、狡猾な面も見せる。戦闘を長引かせると全滅してしまいそうだ。
ネクロマンサーは高位の魔術師という様子で、複数の攻撃魔法を優雅に使い分けてこちらを苦しめる。《マホトーン》で魔法を封じようとすると《マホカンタ》でそれを反射してくるので手に負えない。さらには倒れた仲間を《ザオラル》で蘇生させてしまう。もはやボスのようなモンスターで、一行はこの大洞窟のど真ん中で一体何が起きているのか、錯乱してくるのだった。
この洞窟の魔物は、総じて人間のような頭脳を持ち、非常に巧みに襲い掛かってくる。人間に恨みを持っているような様子もあり、感情的になっているのでなおさら厄介だ。
しかし、《やまびこの帽子》によってムーンのイオナズンが1度に2発も放たれると、世界で最悪かとも思える魔物の集団とも善戦出来るのだった。
とはいえ洞窟の長さを思うとMPを無計画に浪費もできない。ときには痛みを覚悟で魔力を温存しながら戦うことも必要だ。どれくらい長いのか?どれくらい魔力を残すべきか?それは手練れの冒険者のカンによって采配するしかないのだった。
時々宝箱が見えるが、そこまで行って開けてみても大したものは入っていない。ガラクタではなくとも、『はがねのつるぎ』を得たところで今となっては無価値に等しい。しかし宝箱のどれかが強力な武器であるはずで、すると宝箱が見えるたびにそれに向かって歩くしかないのだった。
そうして中途半端なアイテムを掴まされながら、遠回りをして体力や魔力、そして気力は奪われていくのだった。
やがて洞窟は、祭壇のような細長い部屋に辿りつく。ここだけ人の手によって掘られたフロアであるように思えた。床には彫刻タイルで花道が敷かれてすらいる。そしてその先には、ひときわ大きな宝箱が待ち構えているのだった。
ロ「さすがにあれだろう。探し物は」
サ「はぁ~長かったなぁ!」
ム「でも油断は禁物よ!」そう言うムーンの心も緩んではいた。
ミ「わくわく…!ローレ様にお似合いのすっごい剣でしょうか!」
悠然と歩み寄り、ついに一行は宝箱を開ける。
『転生したらローレシアのメイドさんだった件』