エピソード10
サランの村を通り過ぎる。体力的なことを考えれば1日休んでから旅立ちたいが、やはり帰るのは気まずい。
いや、吊り橋の試練を果たしてきたこと、それに偉く感動したことを村長に報告すべきか?そうも思うが、やはり村に入るのは気まずいな、とれいは思った。
隣の村までは、歩けない距離ではないはずだ。
試練を終えたれいにとって、この地帯に出没するスライムやいっかくうさぎはとても弱く感じられるようになった。「おぉ、私も強くなった!たったの1日で」れいは自分に驚く。そしてちょっと調子に乗りたくもなるが、それはマズいだろうと自らをたしなめる。一人しかいないなら、自分と自分で対話をするのだ。
風は優しく、緑は優しい。
ちなみに、魔物たちは一定のダメージを与えると消滅してしまう。その際に、小さな宝石へと姿を変える。
魔物は、魔王か誰かが宝石に魔力を吹き込んで生み出したものなのだ。またはその子孫だ。
人間たちはその宝石を、町や村の両替え屋に持っていく。すると、その国の通貨に換えてくれる。れいの住むサントハイム領であれば、「ゴールド」という通貨だ。世界の非常に多くの国がゴールドを採用している。
(1ゴールドは100円くらい。1ゴールドは1ドルくらい。
3ゴールドは3円ではなく、300円くらい)
夕刻。れいは隣のテンペの村に到着した。
「いつ振りだっけな?」2~3年前に両親と来たか。
サランと同じ様な田舎の素朴の村だが、サランとは異なる独特の匂いがする。
ここは、大豆の練り物を揚げたユニークな食べ物が特産物となっており、美食家たちには少し有名だ。その食べ物もテンペという。いいや、テンペは王都へも積極的に輸出されており、よほどの変わり者でないと、わざわざテンペの村まではテンペを食べには来ない。
とにかくユニークな特産品を持つゆえ、小さいながらに村は穏やかに生きながらえている。
れ「せっかくだから揚げたてのテンペを食べていこう」とれいは思った。
そうして手頃な商店を覗いてみるが・・・
店「テンペなら売り切れちまったよ!
いやね、先日王都から、なんかお貴族さんの一行が通りがかってね。サランに向かう途中のようだったが。
その帰りしなに、ごっそりテンペを買っていったよ。嬉しいが、参っちまうね。
まぁお貴族さんが大豆のカタマリを食って喜んでんだから、健康で何よりさ」
恰幅のよい、面倒見の良さそうなおばさんは、誇らしげに胸を張って言った。
れ「そうなのですか」ふうむ、残念。ローズの葬儀に参列した者たちのことだろう。